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第52話 【グレイグ視点】しょうがねぇなぁ
「オ、オレが戻ろうって言ったから……ごめん……っ」
俺の顔を見て安心したのか、ウルクの目からさらにボロボロと涙が零れ落ちる。鼻の頭もほっぺも真っ赤で、鼻水もダラダラだ。いつもの生意気そうで可愛い顔も今だけは酷いことになっている。
しょうがねぇなぁ。
こういう顔を見るとほだされてしまう。
最初にウルクの護衛の話を聞いたときには、金持ちのボンボンのお守り兼護衛かよ、とあまり気乗りはしなかった。冒険者としての導入教育から始まって、採集の手伝いと護衛、学園から外に出る際は基本的に護衛、となかなかがっちり傍に居なくちゃいけないのはかなり面倒くさい。
ただ、報酬がべらぼうに良かった。
採集した素材こそウルクのものだが、それを補って余りある報酬を貰っている。しかも手付金として質のいい剣と防具までくれるっていうんだから、断る馬鹿はいない。
ギルドマスターのベアさんの紹介で学園に通えるようにはなったものの、学費は自分で稼がなきゃならない。金なんていくらあったっていいんだから。
嫌なヤツじゃなきゃいいけど、と心配しつつ会ってみたウルクは真っ赤なツンツン頭に宝石みたいにキラキラ光ってる生命力に溢れたグリーンの瞳が印象的な、割と気のいいヤツだった。
ボンボンらしく常識を知らないとこや甘ちゃんだなぁと思うところはもちろんある。
苦労知らずの傲慢さを感じるところもあるし、アールサス様とかいういけ好かない婚約者に入れ込んで馬鹿みたいに貢いでるのを見るとイラつくこともある。
でもそれ以上に、いつも一生懸命で、俺みたいなただの護衛を友人のように師匠のように扱ってくれるウルクの素直さに、俺は惹かれ始めていた。
一緒にいると楽しいし、色々教えるのもくだらない話をするのも単純に面白い。表情がころころ変わって可愛いし、意外とガッツがあって努力家なのは好感が持てる。まだ一緒に居るようになって数週間だというのに、オレは徐々にコイツの事が好きになってしまっていた。
コイツが危ない目に遭いそうになったら、俺はきっと、命を賭して守ってしまうんだろう。
今日のように。
自分の得になんてならないのに。馬鹿みたいだ、まったく。
自分自身にも苦笑しながら、俺はウルクの小さな頭をバシッと叩いた。
「アホか。戻るって俺自身が決めた時点で自己責任だ。いつだってこれくらいの覚悟は出来てる」
ポケットからハンカチを引っ張り出して投げてやった。なんかこの前も似たような事あったな。
「ただし、だ」
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