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第53話 【グレイグ視点】笑ってればいいのに
ウルクの真っ赤な髪をさらりと撫でた。サラサラしてて気持ちいい。いいシャンプー使ってんだろうなぁっていうつるつるした手触りだ。
本当は豪華なお邸の中で優雅にお茶でも飲んでりゃこんなに泣くこともないんだろうが……それでも自力で採取するんだ、強くなるんだって、本気で言ってるのは分かるから、言うべき事は言ってやる必要がある。
「お前の判断が、俺やお前を危険にさらすことがあるって事だけは理解しておいてくれ」
「……!」
もの凄い高速で首を縦に振っている。
泣きすぎて声が出ないんだろうが、さらにあふれ出した涙が飛び散るくらい頷いてるから、俺の言いたいことは理解してくれたんだろう。
「でも、危険だからって何でもかんでも安全第一にして欲しいってわけでもねぇんだ」
「……?」
まだ涙が盛り上がってる目で、ウルクは不思議そうに俺を見上げた。
「さっきウルクが言ってたみたいに、リスクをとってでも挑戦したい時もあるだろ。その時は相談しながら決めたいんだ。俺は自分の命も大事だし、ウルクの命だって大事だからな」
「グレイグ……」
「俺は孤児だから、冒険者の資格なんてないガキの頃から魔物と戦ってる。それなりに経験はあると思うけど、それでも熟練の冒険者に比べたらまだまだだ。悔しいけどな」
気がついたら余計なことまで言っていた。孤児だなんて事まで言うつもり無かったんだけど、ウルクの綺麗な翠の目でまっすぐ見つめられると、つい余計な事まで言ってしまう。
嫌がられるかな、と思ったけど特にウルクが『孤児』という言葉に眉を顰める様子も無くてホッとする。
泣き止もうと努力しつつもまだヒック、ヒック、としゃくりあげているウルクの背中をポンポンと叩いてやる。その手を拒否されないことが嬉しかった。
「グレイグはすごいよ。オレは……全然ダメだ……」
涙の合間を縫って、ウルクが悲しそうに言う。
「ギルドマスター達にも、アールサス様にも、グレイグにも……迷惑かけっぱなしで……」
「当たり前だろ。冒険者になったばっかりで、そんなにうまくいってたまるか」
「オレ、もっと、うまくやれると思ってたんだ……」
ぐすっ、ぐすっと泣いてるのを慰めるのなんて、こいつ以外にやったことなくて、どうしたらいいのか分からない。
いつもみたいに笑ってればいいのに。
弟がいたらこんな感じなのかなぁ、って思いながらただ背中をポンポンと軽く叩いてやるしかできない。
お灸を据えてやるつもりでやった事じゃあるけど、お灸が効きすぎたかなぁ。
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