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第54話 【グレイグ視点】採取して来いよ

甘ったれのボンボンには刺激が強すぎたかも、とちょっと反省する。 「あー……その、もう泣くなよ」 「ごめん……でも、止まらなくて」 泣き虫だなぁと思うけど、悔しくて涙が出る気持ちも分かる。 「グレイグ、ごめんね……。これからは、もっとちゃんと考えるから……」 ぐす、ぐす、とちょっとだけ落ち着いてきた涙の隙間に、なんとかそんな事を言うのがいじらしい。俺の命もちゃんと重く考えてくれてることが分かって安心した。 金持ちなんて、雇ったヤツは道具だくらいに思ってるヤツだって多いのに、ここの親子はちゃんとひとつの命だと思ってくれて敬意も払ってくれるから、守り甲斐のある依頼主だと思う。 「ん、頼むな。ところでウルク」 「……?」 「これ、見ろよ」 「な、に? これ」 「さっきの食人花が持ってた魔石」 「!!!????」 驚愕の表情で俺と魔石を交互に見るの面白れぇな。 でも気持ちは分かる。こんなにデケェ魔石はなかなかお目にかかれねぇし。 「涙、止まったな」 「こんなにおっきな魔石ってあるの!?」 「な。デケーよな!」 ウルクの瞳とおんなじ翠色の魔石。売るのがもったいないくらいだが、売ったらいくらになるのか想像もつかないくらいの上物だ。マジで「戻ろう」と言ってくれたウルクに感謝したい。 「すげー値段がつくと思うぜ?」 「確かに……!」 「完全に息の根はとめてある。食人花はどこもかしこも貴重な素材なんだろ? 採取して来いよ」 「……うん!」 涙がひっこんで、この魔石そっくりの綺麗な瞳がキラキラと輝き出す。さっきまで泣いてたくせに、もう興味津々の顔になってるの、本当にゲンキンで面白い。 走って食人花に駆け寄ったウルクは、俺が切り飛ばしたツタも、焼けた灰も、焼け残ったいくつかの素材も丁寧に採取してはマジックバッグに詰めていく。 俺は流石に食人花の素材については詳しくない。だがなんせ食人花の図体がでかいから、ウルク一人で手におえるわけでもない。周囲を警戒しつつウルクに言われるままにでかいパーツを扱いやすいように切り分けたり、周囲になぎ倒された木から採れる採取物を拾い集めたりしていた。 散々採取してから、頃合いを見て声をかける。 「……おい」 「っ!!!」 ハッとしたような顔でウルクが俺を見上げた。 「そろそろ陽が傾いてくる。夜の森は格段に危険だ、今のうちに帰路についたほうがいい」 「……ホントだ!」 完全に夢中になって採取していたらしい。まぁ、デカさがデカさだしなぁ。

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