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第59話 お父様の教え
オレとグレイグにバチン、と力強くウインクしてお父様は何やらノートみたいな物を取り出した。
「伯爵様やコイツらと話し合いを続けてきたんだが、ようやく落とし所が見つかったから、今日はお前達にそれを伝えたかったのと……あと、少々言っておきたい事があってな」
「良かった。どうなってるのかなって思ってたんだ」
「ああ、遅くなって悪かったな」
目を細めて笑うと、お父様は大きな手でオレの頭をグリグリと撫でてくれた。
「まずアールサス様の錬成物についてだが」
「うん」
「アールサス様はウルクにしか売らないと言っているようだから、アールサス様との窓口はお前だ」
「だよね、分かった」
「アールサス様を守れるか、いい取引でより高みへと導けるかはお前にかかってる」
「高みに……?」
そんな発想はなくて、オレはいきなり首を傾げる事になった。
「そうだな……例えばだ、お前はアールサス様が作りたい物を作らせたい、錬金術に集中できるようにしたいと言っていたが、だからと言って全ての依頼をシャットアウトするのは短絡的で悪手かも知れない」
そう言われてドキッとする。見透かされたみたいな気がした。だってオレは、アールサス様のために出来るだけ依頼は請けないようにしようと思ってたから。
「信頼を得る事で新しいアイディアや貴重な素材、珍しいレシピが手に入る事もある。アールサス様があの邸に籠ってるだけじゃ出逢えない物を連れてくるのはお前の役目だ」
「アールサス様が、出逢えない物を……オレが」
「情報は力だ。お前が本格的に商売をするようになればきっとそれを痛感する筈だ。あの邸の中にある本や自分で思いつく物を研究するだけでは限界がある。本当にアールサス様がより高次の練成物を作る事をできる環境を作りたいのならば、どうやって有益な情報を手に入れるかを考えろ」
急に難しい話になって混乱する。
お父様はかつて無いくらいに真剣な表情で俺の目の奥の奥を見つめていて、まるでオレの中に、大切な考え方を埋め込もうとしているみたいだった。
「依頼も人脈もよく吟味するんだ」
そこまで言って、お父様は急に表情を和らげる。
「なにも自分ひとりで考えなくてもいい。アールサス様本人に意向を聞いてもいいだろうし、信用できる人間……ここにいるメンツに相談してもいい」
お父様がそう言いながら周囲を見渡すから、つられてオレも視線を動かしたら、いつの間にか口喧嘩をやめていたギルドマスター達が、オレを見返してくれた。
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