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第61話 初めての交渉

「ベアったらすごく正論な交渉されちゃってるねぇ」 「うるせぇ」 憮然とした表情のベアさんが、ショーンさんを一喝する。そしてオレの方にずいっと身を乗り出して、大きな身体で圧をかけてきた。 「おい、ボウズ。言っとくがオレの提示した価格は適正なものだ。しかもこっちとしてはそれなりのリスクを負ってもいる。本来ならもっと買い叩いてもいいんだぜ?」 「リスクって……?」 「納入元を秘匿するのはこの界隈ではなかなか難しい。お前が抱えてる錬金術師を守るのは骨が折れる仕事だ」 「守ってくれるの!!??」 思わずガタッとソファが動くくらい身を乗り出してしまった。 もしもお父様や伯爵様がつけてくれる護衛でも守り切れなかったとき、トップクラスの冒険者や冒険者ギルドの情報網が使えるなら、きっとものすごく安心できる。 冒険者ギルドがアールサス様を守ってくれる。 それは、今はなんの力も名声も無いオレにとっては、お金には換えられない価値だった。 「お父様も守れるように手を尽くしてくれてると思うけど、いざという時に冒険者ギルドが助けてくれるならこれほど力強いことないよ……!」 「え、おい」 「ありがとうございます!!! ありがとうございます、ベアさん!!! もちろん取引額はベアさんの言い値で大丈夫です! どうかよろしくお願いします……!!!!」 「いや……」 ベアさんのゴツゴツしたでっかい手を両手で握りしめて、心の底からお願いした。 「いや、その」 なぜか歯切れ悪く、なんとも困ったみたいにベアさんの強そうな眉毛が下がってきて、あれ? と思った途端。 「ふふふ……っ、あはははは!」 突然、ショーンさんが笑い出した。 「あっはははは! ベアのこの困り切った顔! 傑作だ!」 え……なんで……? クールな印象がどっかに飛んでっちゃいそうなくらい、ショーンさんが爆笑してるんだけど。 「ああ、楽しいねぇ、こうでなくっちゃ! 君の負けだよ、ベア。この子のキラキラした目、見てごらんよ。君、もうこの子を捨て置けないだろう」 「う、うるせぇ! 黙ってろ……!」 もちろんベアさんのそんな言葉にひるむようなショーンさんじゃ無くて、むしろ余計に愉快そうな表情になってオレに機嫌良く話し始めた。 「ベアときたらこう見えて人が良くてね。質の悪いヤツには容赦がないんだけど、子供や弱者にはとことん弱いんだよねぇ。頼りにされると絶対に見捨てられないんだよ」 「てめぇ……要らねぇ事をベラベラと……!」 歯噛みするベアさんを見ながら、グレイグが苦笑しつつ口を開く。

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