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第67話 ベアさんの心配
グレイグがすんごく困った声を出す。乱暴にハンカチを押し当てられて、オレはえぐえぐと泣きながら、そのハンカチを濡らす事しかできなかった。
「……あんだよ、オレぁお前の事を思ってだなぁ」
「ベアさん、俺だって大丈夫だって判断したから戻ったんです。もっと小さいヤツだったけど、食人花とは戦った事あったから」
「そんなこたぁ分かってる。でもコイツみたいな甘々な小僧は悪気なく他人を死地に誘い込む事があるからな。釘を刺しておかねぇと。おい、小僧」
「……はい」
「人間なんてな、お前が思ってるよりもずっとずぅぅぅぅっと簡単に死ぬんだ。欲かいてコイツを死なすなよ」
「はい……!!!!」
「大体商人なんて生き物は、稀少な素材だの今しかない儲け話だのが自分の命よりも大切だと思ってやがる。自分の命を大事にしろったって聞きゃあしねぇんだよ」
なんだか急にベアさんの声が悲しそうになったから、グスグスと泣きながらも顔を上げてみたら、お父様とショーンさんがバツの悪そうな顔で謝っていた。
「悪かったって」
「……私も、悪かったとは思っている。だが仕方がないだろう。リスクを取るのも重要な事だ。あの頃は、賭けられる物なんか自分の命くらいしか持ってなかった」
お父様はともかく、ショーンさんは反省している様子はない。ベアさんが心配するのも分かる気がした。
「その度にこっちは生きた心地がしねぇんだよ。いいか小僧」
お父様達をひと睨みしてから、ベアさんはまたオレを見据える。
「今回みてぇに欲に目が眩みそうになったら、それがグレイグの命と交換してもいいもんかどうかよーーーーーっく考えろ。くれぐれも自分の命で考えるなよ? お前達商人は、自分の命は秤にかけるどころか、使ってナンボの賭け金みたいなモンだと思ってやがる」
「相変わらずベアは心配性だな」
「全くだね。熊みたいな風体の割に無駄に優しいのが良くない。心根はまさに女神フレイアもかくや、だ。ご両親もよくぞ名付けたものだよ」
お父様が笑えば、ショーンさんも深く頷く。
「うるせぇな、黙ってろ!」
怖い顔で吠えてるベアさんだけど、オレ達を死なせないために一生懸命言ってくれたんだと分かって、怒られてるのになんだかあったかい気持ちになった。
「グレイグ君」
「! ……はい」
お父様に急に声をかけられて、グレイグが小さく身じろぐ。
「この通りうちの子はまだ、冒険者としても商人としても駆け出しだ。グレイグ君に迷惑をかける事も多いと思うけれど、よろしく頼むな」
「はい! 任せてください。絶対に守ります」
「ちなみになんだが、ウルクは草原程度なら人ひとり守りながら採取できるくらいの実力はついたかな?」
突然ぶっ込まれたお父様の質問に、オレとグレイグはまたも顔を見合わせた。
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