68 / 111

第68話 【アールサス視点】のどかな草原

のどかだ。 爽やかな風が吹き渡り、今まで聴いた事もない美しい声の小鳥の囀りが聞こえてくる。 そして目の前では、可愛らしい草花を掻き分けながら素材を探しては真剣な顔で吟味している真っ赤な頭があった。最高に幸せだ。 「!」 ぴょこん、と顔が上がって、若葉色の瞳が僕を見つめる。 「アールサス様、退屈じゃないですか?」 「退屈なものか! 随分と久しぶりに邸と学園以外の場所に来ることができて、とても楽しい……!」 しかもウルクと一緒だなんて、こんなに嬉しい事があるだろうか。 でも、それは恥ずかしくて言えなかった。 「良かった」 ホッとしたように、嬉しそうに笑ってくれるウルクの姿に、じんわりと嬉しさが込み上げてくる。けれど、同時に申し訳なさも感じてしまって、僕はつい俯いてしまった。 「楽しいけれど……でも、わがままを言ってすまない。ウルクに負担をかけてしまった」 僕が……本当はウルクと一緒に採取に行きたいんだなんて、ウルクの父親に言ってしまったばっかりに、今日こうしてウルクが一緒に草原に来てくれている。 魔物が出たらウルクが颯爽と剣で薙いでくれて、僕には傷ひとつついていない。僕よりも小さくて一見華奢な身体に見えるのに、俊敏に動いて魔物を両断するウルクの姿は、とても頼もしくてかっこよかった。 「負担だなんて! オレもすっごく楽しいですけど」 「でも、僕は学園以外では外に出ることさえ滅多になくて戦闘ではてんで役に立たないし、さっきからウルクに守って貰ってばっかりだから……」 「あれくらいは、採取に来ればいつだってやってることだから全然気にしなくてオッケーです! それよりアールサス様は大丈夫ですか? 怖くない?」 「最初は怖かったけど、ウルクがあまりにもかっこよくて、怖いのが飛んでしまった。ウルクはすごいな」 「かっこいい!!?? 本当に!?」 「……!!!」 ウルクが……! 僕に、満面の笑顔を見せてくれた。 嬉しくて死にそう。 「うわぁ、嬉しい! オレこのところ怒られてばっかりだったし、自分でもダメだなぁって落ち込んでたから、なんか今、すっごく元気でました! アールサス様、ありがとうございます……!」 僕の両手を握って、キラキラした瞳でまっすぐに見つめられると、自分の頬に熱が集まってくるのが分かって、嬉しいのに恥ずかしくてどうしようもなくなってしまう。 心臓がバクバク言っていたたまれないけれど、ウルクから目を離すこともできずに甘い胸の痛みをただやり過ごした。

ともだちにシェアしよう!