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第70話 【アールサス視点】もどかしい思い
「全然勇敢じゃないですよ。すっごく怖かったですもん!」
そう言いつつも、結局ウルクは渋るグレイグを説得してその魔物の元に戻ったらしい。僕からしてみれば信じられない勇気だ。目の前の小さな身体が、光り輝いて見えた。
「結果的にはすっごい大量の素材が手に入ったんですけど……あ、あとでアールサス様の部屋に戻ったら素材見せますね。色々レアな素材があるから、好きなだけ確保してください」
にっこり笑うウルクがいじらしくて、不覚にも鼻にツンと込み上げてくるものがある。一時でもこんなウルクを『高飛車で鼻持ちならないヤツ』と思って嫌っていた、自分の性根をたたき直してやりたい。
「役に立つか分かんないけど、毒液とか麻痺液とかも採取できたんです。毒みたいな成分も、使い方次第でお薬の原料になるって聞いたことあったから、もし役に立てばって思って」
感動で言葉が出なかった。そんな物、採取するだけでも危険だろうに。
「ありがとう、ウルク……! そこまでして、僕のために……」
「えへへ、喜んで貰えて良かった。ただ、いい素材は採れたんですけど、もの凄く危険な行為だって怒られたんです。でもそれって脅しでも何でも無くて、ホントにオレ、一瞬グレイグが死んだって思ったくらいだったから……」
ウルクの顔が曇る。
たまらず、僕はウルクを抱きしめた。
「ウルクは悪くない……!」
まだ冒険者になって日も浅いウルクに、そんな高度な判断はきっと難しい。
「ただ、僕からもお願いだ。少しでも危ないと思ったら素材なんて捨てて逃げてくれ。貴重な素材より、ウルクがこうして生きて帰ってきてくれる方が、何十倍も、何千倍も僕は嬉しい」
「……」
腕の中のウルクをぎゅっと抱きしめてそう言えば、ウルクはびっくりしたみたいに僕を見上げてきた。
本当は素材なんていいから、採取に行かず安全な場所に居て欲しい。
でもきっとそれは無理だ。
グレイグという護衛のようにウルクを守れる力があったなら、僕も一緒に採取に行って、傍で危険がないように気をつけてあげられるのに。
今の僕じゃ比較的安全だと言われる草原ですら、むしろウルクに守ってもらわないと同行できない。どう考えても足手まといでしかないから。
もどかしい思いで、ウルクを抱きしめるしか無かった。
「アールサス様……」
小さな声が聞こえてきてハッとして見下ろすと、ウルクがすがりつくように僕の胸に顔を埋めていた。
「あの……なんかだんだん、その、恥ずかしくなってきて……」
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