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第71話 【アールサス視点】僕にできること
聞き取れるかどうかというくらい小さな声で言われてよくよく見てみると、ウルクは耳の後ろやうなじまで真っ赤になっていた。
可愛い。
「すまない、密着しすぎた……」
僕もなんとなく恥ずかしくなってきて、そっとウルクの身体を解放する。
「えへへ、ごはん、食べましょうか」
照れ隠しみたいにまだ赤い顔で笑って、ウルクがお弁当のバスケットをマジックバッグから取り出す。
温かいうちに収納されたからなのか、まだほかほかと湯気を立てているスープや色とりどりのフルーツ、僕の好物が挟み込まれたサンドイッチを爽やかな草原で食べるのは、想像していたよりもずっとずっと美味しくて、幸せな時間だった。
この平和な時間がずっと続けばいいのに。
そう思わずにはいられなかった。
***
「アールサス様、さすがにそんなには使い切れませんって」
「いや、でも……」
心配で心配で、邸に戻ってすぐに手持ちの攻撃力や回復力がありそうな練成物を探しまくってウルクに渡したら、ウルクに笑われてしまった。
「マジックバックに入れておけばいいだろう? 僕にはこれくらいしか出来ないんだ。頼むから持って帰ってくれ」
「いや、でも、ギルドに納品するのも持って帰らないといけないし、マジックバッグも無限じゃないんですってば」
ギルドに納める物なんて正直どうでもいいが、ウルクが作って欲しいと言うなら作るしかない。ポーションなんて僕にとっては半分寝ながらでも作れる代物だ。仕方なく練成をしている内にいいことを思いついた。
手早くポーションを仕上げて、ウルクがラベル作りをしている間に錬金術のレシピを高速で読みあさる。
どんな病も治癒させる万能薬を作りたいと思って錬金を続けてきたけれど、今はただ、とにかくウルクの身を守れるものを練成したい。
殺傷能力の高い火炎球の上位の練成物を調べていて、ふと注意書きが目に入る。
『暴発の危険性あり。取扱注意』
ぞっとした。
僕が作った練成物でウルクがケガをしたり、もしも死んだりしたら……。
そうだ。殺傷能力が高い物を持たせると言うことは、そういう危険性が常につきまとうと言うことなんだ。
それからは、防御力を高めたり加護をつけたり、身を守る方向性の物まで範囲を広げて調べてはノートに素材を書き付けていく。
「あの……アールサス様」
声をかけられてハッとした。
「あ……すまない、つい夢中になって……」
せっかくウルクが傍に居てくれたのに、また僕ときたらウルクを放ったらかしにして……。
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