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第72話 【アールサス視点】大切な人を守るために
何かに集中するとすぐこれだ。自分のバカさ加減にうんざりする。なのにウルクは目を輝かせて僕をまっすぐに見上げてきた。
「いや、オレすっごく楽しかったです!」
「え? 退屈だったんじゃないか?」
「とんでもない! アールサス様すごかったですよ! シュババババッてすごい勢いで本読んで、目にもとまらない早さで何かノートに書き込んで……オレ、まるで魔法を見てるみたいでした!」
「ああ……速度強化の薬を飲んでいるから」
そういえば、こういう支援系の練成物も持たせてやった方がいいのかも知れない。後で調べておこう。
ウルクが怒っていない事に安心しつつ、僕は書き付けたノートを破り取ってウルクに渡す。
「これは……?」
「欲しい素材の一覧を作ってみたんだ。申し訳ないけれど、次に来る時にこの中で手に入った物があったら持ってきてくれないか?」
「! はい!」
「くれぐれも無理はしないで欲しい。これはウルクの身を守るために作りたい物の素材なんだ。コレを集める為にウルクが危険な目に遭ったら、僕は僕を許せなくなる」
「アールサス様……! え、まさかこれ、全部オレのために……?」
「悔しいけれど僕は弱すぎて、すぐ傍でウルクを守る事が出来ない。けれど、ウルクの身は絶対に僕が守るから……!」
ウルクがしてくれたように両手を握りしめて、目をまっすぐに見つめて思いを伝える。
このところすっかり日に焼けてきた健康的な肌に、澄んだ翠色の瞳が映えてとても綺麗だ。この瞳が色を失わないように、出来ることはなんだってしたい。そう思った。
ウルクは嬉しそうにはにかんで、僕が書いたメモを大切そうに持って帰って行った。
そんなウルクを見送った僕は、ひとりになると早速栄養剤をあおり飲む。
今ある素材でも、出来ることはある。
時間がもったいないから、僕が今まで作った事がある物の中で、考え事をしながらでも作れて、かつウルクに必要そうなものを錬成しながら計画を立てよう。
そう思ってハイポーションを作ることにした。
『効果2倍』で『疲労回復』、それに……以前何かを錬成したときに獲得した付加効果『解毒作用』をつけておけば、魔物からかなり深い傷を負わされても回復できる筈だ。
必要な素材を粉になるまで砕いたり練ったりしては錬金釜に投げ入れてかき混ぜるという地味な作業をこなしながら、頭ではまったく別の事を考える。
今日ウルクと一緒に採取にいったおかげで、ウルクが採取する時にどんなことをしているのか、魔物と戦う時にどんな危険があるかのほんの一部でも分かったのはラッキーだったかも知れない。
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