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第75話 探すしかない

きっと前世の記憶を思い出してすぐに、できる限りの手を打ったのが良かったんだろう。 多分だけど。 一年後には確実に婚約が解消されるって分かったから、アールサス様もオレに対して変に警戒したり悪感情を抱かなくて済むようになった。 オレができるだけ錬金の時間を確保できるように頑張ったり、アールサス様が使うだろう素材を集めてきたりするようになったから、オレを好意的に見てくれるようになったし、心配もしてくれるようになった。 人間の感情って不思議だな。 あんなに嫌そうだったのに、状況が変わったりこっちの態度が変わると、相手もびっくりするくらい柔らかくなることもあるんだ。 「……嬉しいな」 アールサス様はもともと優しい人なんだから、やっぱりあんな嫌そうな悲しそうな顔より、笑って、幸せそうな顔して柔らかい気持ちを持ったまま過ごしてほしいもん。 あんまり心配もさせないようにしないとな。 今度は週末の露店で販売する予定のリストを作りながら、オレはそんな事を考えていた。 *** 翌日首尾よく素材を購入できたオレは、小さめのマジックバッグに『アールサス様に渡す素材セット』をいそいそと詰めて、さらに翌日の学園でドキドキしながらアールサス様の教室を探していた。 上級生の教室に突撃するなんて初めてですっごく緊張する。 しかも困った事にオレ、アールサス様の学科も学級も知らないんだよね……。なんせ学園ではむしろアールサス様に遭遇しないように気を付けてたくらいだから、仕方ない事ではある。 でも真面目に困った。 もう誰かに声かけて聞いちゃおうかなぁとか考えつつうろうろしてたら、いきなり声をかけられた。 「あれ? その真っ赤っ赤の髪……君、ウルクだよね。アールサスの婚約者の」 「!」 びっくりして振り返ったら、優しそうな黒縁眼鏡の人が立っていた。柔らかなブラウンのウエーブヘアで、ひょろっと背の高い頭のよさそうな印象の人だ。 「ああ、やっぱりそうだ。どうしたの? もしかしてアールサスに用事?」 「あっ、はい! 届けたいものがあって。でも、オレよく考えたらアールサス様の学科も学級も知らなかったなと思ってちょっと途方に暮れてました」 「あははははは、それは教えてないアールサスも悪いなぁ」 正直に言ったら、アールサス様の友達らしきその人は楽しそうに笑った。笑ったらさらに優しそうに見える。良かった、やっぱり気のいい人みたいだ。 「ついておいで、案内してあげるよ」 「本当ですか!?」

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