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第76話 優しい友人

「ああ。アールサスとは友人なんだ。俺はカルバン。よろしくね」 「ありがとうございます、カルバンさん! すっごく助かります!」 「ははは、可愛いなー」 なんか笑われてるけど、意外にも嫌味はないのが不思議だ。ま、可愛いって言われても仕方ないかなとも思うしなぁ。 他愛もない話をしつつオレの半歩先を歩いて案内してくれてるけど、向こうはひょろ長いしオレは小さい方だし、正直話すの首が痛いもんな。そりゃ可愛く見えるだろう。 子供に見えててもおかしくない。ちくしょう。 「アールサスってさ」 ひとりで勝手にひがんでいたら、カルバンさんが振り返った。 「はい」 「母親が亡くなってから、本当にずっと落ち込んでてね。生気がないって言うか……俺もずっと心配してたんだけど」 「はい……」 そりゃそうだろうな、と思いながら頷く。カルバンさんが、そんなアールサス様を本当に心配していたんだなって事だけはオレにも分かった。 「それがね、この頃急に眼に輝きが戻って、なにかやりたいことが見つかったみたいなんだ」 「……本当ですか!」 「君のおかげなんじゃないかって勝手に思ってるんだけど」 カルバンさんは意味ありげに微笑むけど、どっちかって言うとオレとの婚約によってより気持ちを塞がせてしまったという方に心当たりがある。でも、ずっと傍にいたご友人から見てもアールサス様に生気が戻ったっていうなら、本当に良かった。 「それはないですよ。でも、アールサス様が元気になったんなら、理由が何であれ嬉しいなぁ」 嬉しくって思わずへらっと笑ったら、カルバンさんはにっこりと笑い返してくれた。 「今の笑顔を見て安心したよ。アールサスの事、本当に気遣ってくれてるんだな」 それはこっちのセリフだ。アールサス様っていいご友人をお持ちなんだなぁと感心した。優しい人の周りには優しい人が集まるのかもしれない。 「君がアールサスの婚約者で良かったよ」 そう言いつつカルバンさんは教室の扉を開けた。どうやらここがアールサス様の教室みたいだ。 「アールサス!」 カルバンさんが呼ぶと、窓際に居た柔らかそうな淡い水色の髪がふわっと振り返る。 うわぁ……制服姿のアールサス様、可愛い!! 格好いい!!! あまりにレアな姿に我慢できなくて、もっと見たいと思ったら、カルバンさんの背中からぴょこんと顔を出していた。 「ウルク!!?」 驚いたみたいにアールサス様がガタガタッと音を立てて立ち上がり、走ってこっちまで来てくれる。慌てさせちゃったなぁ、ってちょっと反省した。

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