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第77話 学園のアールサス様
「来てくれたのか!」
「すみません、教室が分からなくてうろうろしてたら、カルバンさんが案内してくれて。……ありがとうございました、カルバンさん」
「どういたしまして」
ひらひらと後ろ手に手を振りながらカルバンさんはさっさと教室に入っていく。
「ウルク、ちょっと落ち着いて話せるところに移動しよう」
アールサス様がそう言ってくれるけど、マジックバッグを届けに来ただけだから実は時間はかからない。アールサス様の制服姿を見る事ができただけで充分だ。
「あ、大丈夫です。オレ、集まった分の素材を届けに来ただけなんで。貴重なお昼休みだし、ゆっくりしてください」
「……せっかく来てくれたのに、そんな寂しい事を言わないでくれ。ウルクは忙しいのか?」
アールサス様にこんな悲しそうな顔で言われたら、オレに断れる筈なんてない。
「あ、いや、アールサス様がいいんなら、オレは大丈夫ですけど」
「では行こう」
優しく微笑んだアールサス様に連れていかれた先は、平民のオレなんて足を踏み入れたこともない場所だった。
いや、途中までは来た事あるよ? だって学園の食堂だもの。
でも、食堂の二階までは開放されてるから来たことがあっても、三階は個室になってるとかで暗黙の了解で貴族御用達の場所になっていた。触らぬ神にたたりなしって言うし、オレはこの場所に近づこうと思ったことすらなかったんだ。
「どうした? 落ち着かないみたいだね」
「ここ、入ったの初めてで……」
部屋自体はそんなに広くなくてせいぜい4.5人くらいしか入れなさそうだけど、やっぱ、下の食堂とは違って内装も適度に豪華だ。ドアがいくつか並んでたから、似たような部屋がいくつかあるのかもしれない。
「そうか。僕はよくここを使うんだ。あまり人の目を気にしなくていいしね」
「ですよね……」
それはまぁ、アールサス様は貴族だからね。この個室を使うことに違和感はないだろうなぁ。
ただ、食器類や内装は豪華だけど、意外にも食事の内容は特に変わらなくて、いつも通りに食事は美味しい。緊張しつつも食べていたら、アールサス様のお皿がなかなか減らないことに気が付いた。
「あの……食べないんですか?」
「ああ、ウルクと昼食を一緒に食べることができるなんて嬉しくて、つい食べるのを忘れてた」
「……!」
アールサス様って割と恥ずかしい事言うよね……と、このところ思うようになってきた。もしかして、思ったよりオレに好意を持ってくれてるんじゃないかって、期待してしまう自分がいる。
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