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第87話 返事に困るなぁ
「そうか。見せてもらうよ」
「はい!」
お兄さんが棚の上の商品をじっくりと検分している後ろで、王子様フェイスが睨んでくるけど無視だ。
グレイグがさりげなく立ち上がって、いつでもオレを守れるように構えてくれている。こんな時グレイグの存在はとてもとても頼りになるんだ。本当にありがたい。
ひとつひとつ商品を手に取ってラベルを読んでいたターバンのお兄さんが、急に顔を近づけてきて、囁くように言った。
「君、今日はだいぶ儲けたらしいね。噂になっているよ」
「えっ、本当ですか!?」
「気が付いてなかったの?」
ターバンのお兄さんが微笑む。
「オレ、実は今日初めて店を出したから、なんか夢中で……周りの事あんま見れてなかったです」
「初めての割には品揃えがいいね。どれもこれも、かなり面白い付加効果がついてる。例えばこんななんの変哲もないような薬草ですら」
ターバンのお兄さんが手にしているのは『眠くなる』付加効果がある薬草だった。その付加効果は既にアールサス様は持ってたから売りに出したんだけど。
「ああ、それはオレが採取したものなんです。ギルドで売ったら単なる薬草として買い取られちゃうから……せっかく面白い付加効果があるから、売れる商品も少なくなってきたし売ってみようかなと思って」
「それは少し勿体無いかも知れないね。それこそこんな上質な錬成物を作る錬金術師がいるなら、その人に渡して錬成して貰えばもっと高値で取引できるよ」
まぁ、それはそうなんだけど……とはいえ、こっちの事情を話すわけにもいかないし、親切で言ってくれてるんだったらわざわざ相手の気分を悪くするのもなんだし。
申し訳ないけど当たり障りのない回答でごまかすしかない。
「……確かに! ああでも、その錬金術師の方は父を通してしか品物を卸して貰えないんで、お渡しするのも難しいかもなぁ」
「そんな事ないでしょう。お父さんにも言ってみるといいよ。そういう腕のいい錬金術師ほど、質の良い素材は喉から手が出るくらい欲しいはずだよ。君が採取した素材は品質値も高いしね。いい素材を見つける目もいいんだろうが、採取する時の処理も丁寧なんだろう」
「……ありがとうございます!」
うわぁ、褒められた!
なんか嬉しい。
優しい笑顔でそんな事言われたら、とりあえず気分上がるよね。思わずホクホク笑顔になってたら、王子様フェイスからジトっとした目で睨まれた。
「ああ、やだやだ。顔がきく父親がいると楽でいいよねぇ」
ついに王子様フェイスが割って入ってきた。
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