88 / 111

第88話 【グレイグ視点】なんなんだ、コイツは……!

「ああ、やだやだ。顔がきく父親がいると楽でいいよねぇ」 その言葉に、思わずイラッとした。 あの異国風の男にウルクが褒められるのが我慢ならなかったんだろうが、ウルクの事を何も知らないくせにこうも悪し様に言われると腹が立つ。 確かに他の商人や冒険者に比べればかなりの好待遇だ。滑り出しはラクをさせて貰ってるかも知れない。 ただ、ウルクは草原や森に足繁く通っては自らの手で素材集めもしているし、今日だって最初こそ顔なじみが来てくれたものの、そこから実際に購入まで持ち込んだのは、明らかにウルクがうまく接客したからだ。 そんな事を一切合切抜きにして、こいつが豪商の息子だからってだけでこんな言われ方をしなきゃならないなんて。 ウルクは苦笑しているが、俺はかなりムカついていた。 そんな事にはお構いなしで、なおも金髪ヤロウは言いつのる。 「カペラ様、コイツつい先ごろ貴族の息子と婚約したんですよ。金で貴族に取り入ろうなんて強欲な金持ちが考えつきそうな事だと思いません?」 なんなんだ、コイツは……! さらにイライラを募らせる俺の目の端に、異国風の男が僅かに顔をしかめたのが見えた。もしかしてこの異国風の男も、金髪ヤロウの言葉を鵜呑みにしてウルクに悪感情を持つんだろうか。 一瞬そう心配したが、どうやら杞憂だったようだ。 異国風の男は眉根を寄せて金髪ヤロウを睨みつけた。 「……君、さっきも言ったけれど、商談の邪魔をするなら帰ってくれないか」 「ぼ、僕はカペラ様が騙されないようにと思って……!」 「申し訳ないが、君よりも長く生きているし君よりも多くの人物と交流がある。誰を信頼するかは自分で決めるよ。君に指南して貰う筋合いはない」 「……っ」 「分かったならどこかへ行ってくれ。そもそもさっきから何度も言っているが、この国にも何度も来たことがあるんだよ。君に助けて貰わなければならない事など何もない」 「ぼ、僕は……」 「……」 まだ何か言いたそうにはしていたが、異国風の男に睥睨されて金髪ヤロウは悔しそうな顔でウルクを睨んでから走り去っていった。 その後ろ姿を見送ってそっとため息をついてから、異国風の男はこちらに向き直る。 「嫌な思いをさせて申し訳なかった」 「いえいえ、あんな風に思われるのは慣れてるんで、気にしないでください」 ウルクはなんて事無いみたいに言って、明るく笑った。 あんな理不尽な言われ方をするのが慣れてるなんて、ウルクも苦労してるんだな……とちょっと可哀相になる。

ともだちにシェアしよう!