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第90話 【グレイグ視点】割と面倒なヤツ

「ウルク君、さっそくなんだけどこの列の練成物を全部貰っても良いかな」 「全部ですか!? 結構な値段になりますけど」 「大丈夫、資金はそれなりにあるからね。どれも甲乙つけがたいほど素晴らしい練成物だ。心配してくれなくても錬金術があまり盛んではない国で売れば大もうけできるんだよ」 「そっか、そうですよね。じゃあありがたく。結構大きいのありますけどマジックバッグとかお持ちですよね?」 「もちろん。それで相談なんだけど」 「はい」 「こっちの素材も全部買うから、私が次に来るまでにその素材を使って、錬金術師にまた新たな練成物を作って貰えないかな」 「それは無理です」 「どうして? 交渉してみてくれないかな。もし断られてもそれでお金を返せなんて言わないよ」 「うーん、父から『商売人たるものできない約束はしてはならない』ってきつく言われてるんで。約束破ると、もうこんな風に露店を出すことも出来なくなるかもだし……勘弁してください」 本当に困ったような顔でウルクが断る。 うまいこと言って断るなぁと感心しつつも、このカペラという異国の男が、錬金術師にかなりの興味を抱いてるみたいだという事に若干の不安を感じた。 「ふぅん……そう言えばさっきの子が、君の親は豪商だって言っていたね。ちなみに、お父様の商号を聞いてもいいかな」 「ボルド商会です」 「ボルド商会……! 私の国でも名前を聞くほどの大店じゃないか」 「なので、父との約束を破ったり、父の顔に泥を塗ったりすると、マジでオレ、今後この国で商売できなくなる可能性あるんで」 笑いながら説得力抜群の事を言い出すウルク。これがハッタリなのか本当なのかは俺にも分らなかった。 「そうか……錬金術師とは君のお父さんを通じての取引だと言っていたものね……」 ううむ、とカペラは考え込んだ様子を見せる。やがてもう一度ウルクを見て言った。 「君、次に店を出すのはいつかな」 「まだ決まってないんです。また面白いのを仕入れられたらお店を出せるかも、ってくらいで」 あれ? って思った。さっきまでの客にはたしか来週にはまた、って言ってた筈だ。 「ふうん……」 「運が良ければまた近いうちに出せるかも知れないですけど、まだ決まってないので……カペラさんはいつまでこの国にいるんですか?」 「うーん、最初は明日にでも次の街に行こうかと思ってたけど、この市場をまわってみて、もうしばらく滞在してみようかなと思ってる」 「じゃあ、もしオレがまた店を出してたらよろしくお願いしますね!」

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