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第91話 【グレイグ視点】奢ってやる
「楽しみにしているよ」
華やかな笑顔を見せて、カペラは帰って行った。なんとなく緊張したな……と思っていたら、俺の横でウルクもそっと長い息をついていた。ウルクにとっても緊張する時間だったんだろう。
ここで客の話をするのもアレか……と思っていたら、ウルクが俺を勢いよく見上げる。
「今日はもう店じまいしよ! 夜の部の人に場所を明け渡さなきゃ」
「了解」
もう片付けなきゃいけない売り物も少ない。店じまいはあっという間で、ウルクはスッキリしたような笑顔で俺を見上げてきた。
「はい! これ今日の報酬! 一緒に居てくれてありがとう。すごく心強かった」
渡されたのは、上質そうな革で作られた財布だった。ずっしりと重い。中身を見てみたら金貨まで入ってる。一日店番につきあっただけで貰うには過ぎた報酬だ。
銀貨を数枚抜き取ってウルクに返した。
「これだけでいい」
「ダメだよ。報酬は最初に決めたとおりにしないと。あと、この財布はグレイグへの日頃の感謝の印。どれがグレイグに似合うかなってオレ、真剣に選んだから使ってくれると嬉しいな。中にいくつかポッケがついてるからさ、使い勝手がいいと思うんだ」
「……!」
言葉がでなかった。
ウルクが、俺のために、わざわざ選んで買ってくれたのか……?
「貰ってくれる?」
小首を傾げて見上げてくるウルクが愛しすぎて、気がついたら掻き抱いていた。
「ありがとう……!」
「うわっ」
こんな風に気遣って貰った事なんて無かった。
ウルクが自分の時間を使って、俺を思い浮かべながら贈り物を選んでくれたのかと思ったら、嬉しくて嬉しくて、胸のあたりが急激に熱くなった。
俺なんてただの護衛なのに。
出そうになった涙をぐっと堪えて、俺はいつもどおりの顔をなんとか作り出す。名残惜しいと思いつつ体を離すとウルクが大きく息を吸い込んでたから、力を入れすぎていたのかとちょっと反省する。
気持ちが入りすぎた。
「ありがとう、ウルク。すげぇ嬉しい。大切な物を入れるようにする……!」
「へへ、喜んで貰えて良かった!」
照れくさそうに笑うウルクが可愛くて、愛しくて。本当はもっとぎゅうぎゅうに抱きしめたかったけど我慢した。
「ウルク、飯に行こーぜ。貰いすぎだから奢ってやる」
「わーい! やったね!」
素直に喜んでくれるウルクを連れて、いつも行くよりもちょっとお高い店に入る。ここなら個室もあるから何を話しても面倒なことにはならないだろう。
「うわー、オレこの店初めてだ!」
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