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第92話 【グレイグ視点】二人で打ち上げ
「だろ? 結構美味いって聞いてたからさ、金が入ったら連れてこようと思ってたんだ」
ウルクの話を聞いてたら、ウルクに一番縁が無さそうなのがこの中間層の店だった。
俺の雇い主でもあるウルクの親父さんはちょっと変わった人で、元は一介の冒険者だったところから腕一本で成り上がって今やこの王都でも一番と言っても過言じゃねぇ大商人だ。
ウルクもさぞや贅沢なモンばっか食ってんだろうと思ったら、市場の露店でも安っすいそこらの食堂でも平気で入っていくし、なんなら顔馴染みだった。
どうやらウルクの親父さんは冒険者時代の行きつけに、今でもウルクを連れて時々食べに行くらしい。
商売のためには、上流の人達と話を合わせたりマナーを覚えたりするために一流と言われる店に通うのも大事だが、露店でも安っすいそこらの食堂でも、美味いモンは美味い、というのが親父さんの結論なんだと。
らしいっちゃらしい。あの人、豪快そうだもんな……。
そんなわけでウルクは一流店も、安っすいけど美味い店も、通い慣れてる。こういう『ちょっといい店』の方が物珍しいだろうと踏んだんだ。
あっつあつの塊肉を塩釜から取り出して目の前で切り分けてくれたら、肉汁が溢れるようにジュワッと出てきて、嫌でも食欲がそそられる。
ひと通り食事が運び込まれて給仕がいなくなると、早速俺達は今日の露店の話で盛り上がった。
はっきり言って今日は想定外の大成功で、最後には品出しする物が無くなりそうなレベルで売れたし、「また来るよ」「次はいつ店を開けるんだ」って色んな人が聞いてくれた。
ウルクの事を知ってる人ももちろん半分くらいはいたけど、一見さんも多くて、まだ子供みたいなナリをしたウルクを心配して寄ってみたら置いてあるモンがなかなかの逸品で仰天して買って帰る、なんて人もいた。
親父さん譲りなんだか、ウルクは人見知りするような素振りもなく終始楽しそうに接客していて、老若男女関わらずウルクに好感を抱いて帰ってくれたようだ。
気持ちは分かる。
「お前、すげーな。どんな客にも興味を持ってくれそうな品勧めて、説明も丁寧で……あんな数の品物、使い方まで全部頭に入ってるの、ホントびっくりした」
「だって使い方分かんなかったらお客様だって困るじゃん。お客様もいい人ばっかりで良かったよ。でも、なんかあの人だけはちょっと怖かったな」
「最後に来た、あのカペラっていう、異国の男か」
「あ、やっぱ分かる?」
ビンゴだった。
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