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第93話 【グレイグ視点】気になりはするが

「あの男、錬金術にかなり固執してるみたいだったしな。ウルクも警戒してるっぽかったから」 「うん、だよね。オレに探りを入れて錬金術師に辿りついたら、直接交渉してお抱えにするつもりなんだと思う。でもそれだとアールサス様が危ないから」 「ベアさんが言ってた、監禁して死ぬまで錬金させるってヤツか」 「死ぬまでさせるかどうかは分からないけど、欲に目は眩むと思う……」 目に見えてウルクがシュンとなる。 「せっかく商売始めたのに、まさか初回から厄介そうな人に目をつけられるなんて、オレ……向いてないのかな」 「んなワケあるか。みんなご機嫌な顔で買って帰ってたじゃねぇか」 「そうかなぁ」 「簡単に自信なくしてんじゃねぇよ! ホラ! 食え!」 クエール豚の塩釜焼きをひとくち大に切り分けてフォークで突き刺し、ウルクの前に突き出してやったら、雛鳥みたいにパカっと口を開けて噛みついてきた。 素直過ぎてバカ可愛い。 どさくさに紛れてあーん出来てしまった。 密かに喜びつつ、それでも言うべき事は言っておく。 「ま、心配し過ぎなのかも知んねぇけど、一応親父さんやギルド長達の耳には入れといた方がいいかもな。もしかしたらアイツの噂とか既に知ってる可能性もあるし」 「……うん! ありがとう。やっぱ、グレイグがいてくれて良かったよ! なんか気が楽になった」 「そっか。ま、今はとりあえず食おうぜ! んで、帰りにギルドに寄ったらいい」 「うん!」 それからは本当に楽しく二人で飯を食って、帰り道に約束通りギルドへと足を運ぶ。いつもと違うのは、冒険者ギルドだけじゃなく、商業ギルドも梯子する必要がある、くらいのモンだ。 ギルド長達に報告してはみたものの、あのカペラという男について現状のところ特に悪い噂はないらしく、俺たちはとりあえずホッとして各々の家路についた。 変化があったのはそれから5日くらい経ってからのことだ。 森に採取に行く途中に、ウルクはなんとも微妙な顔でこんな事を言い出した。 「今日アールサス様からさ、なんか気持ち悪い話聞いたんだけど」 「気持ち悪い話?」 聞き返しながら、自分の眉間に皺が寄るのが分かる。 なんせこのところウルクと来たら、昼休みになった途端にアールサス様のところに行ってしまう。俺としてはちょっと寂しい部分もあったりするんだ。 ウルクは今日もアールサス様と昼食をとっていたから、きっとその時に聞いた話なんだろう。 「うん、それがさ。この前露店やった時に最後に来たお客様覚えてる?」

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