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第94話 【グレイグ視点】どういう事だ?
「そりゃ覚えてるさ。あのカペラっていう異国の男だろう? ……ん? なんでアールサス様からアイツの話がでるんだ? ……まさか!」
「あ、いやいや違うんだ。そのカペラさんにくっついてたイヤミな感じの先輩? あの人がさ、アールサス様と同学年だったらしくて」
「あー……いたな、ケンカ売ってんのかって感じの」
「そうそう。アールサス様によるとあの人、トニング伯爵家の五男でパネトーラ様って名前らしい」
「伯爵家の五男!? が、あんなとこで一人でウロウロしてたのか!」
「五男ともなると長男、次男ほどは厳しく管理されないんだよ。基本的に騎士になったり文官になったり商売始めたりしてるしね」
「そっか、伯爵家なんてとこに生まれても生まれ順次第じゃ将来安泰ってわけでもねぇのな」
「それでも恵まれてる事には変わりないけどね」
「そりゃそうだ」
俺なんかとは比べ物にならないくらい恵まれた環境で生きているのは間違いない。なんせ住む家も美味いものも勝手に出てくる。剣や馬術、知識だって学び放題だろう。学ぼうと思えば、の話だが。
「でね、アールサス様の話によると、そのパネトーラ様がアールサス様にオレと市場で会ったって話しかけてきて」
「うわ、またお得意の嫌味でも言ったのか。気にすんなよ」
「それが違うんだよ。オレの事すごく褒めてたって」
「は?」
間抜けな声が出た。
「市場でも噂になるくらい商売上手だったって。自分にも丁寧に接客してくれて嬉しかったって」
「胡散くせぇ〜!!!!」
「だよね! やっぱりそう思うよね!」
「あったりまえだろ!!! そんな態度じゃなかったし、そんな殊勝な事言いそうなタイプでもねぇし」
「だよね、敵意しかなかったよね! しかもそれから毎日みたいに話しかけてくるようになったんだって」
「うわぁ……何企んでんだか」
「アールサス様はウルクのおかげでパネトーラ様と親しくなれたって喜んでるんだけど、オレ、腑に落ちなくてさ」
「そりゃそうだろ。あのカペラって男がどれくらい噛んでるかも気になるところだよな」
「うん。アールサス様にはそんな話おくびにも出してないみたいだけどね」
「なるほどな」
そうなるとかなり手が打ちにくい。現状だけ見れば相手はただ仲良くしようと寄ってきてるだけだ。ウルクの事を悪し様に言う訳でもないなら、こちらから悪い噂を入れるのも憚られる。
それが狙いなのかも知れなかった。
「なんか嫌な感じがするよな。お前、親父さんとかにも軽く話しといた方がいいかもな」
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