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第95話 【グレイグ視点】言えない思い
「やっぱりそうだよね……」
ウルクがちょっとだけ悔しそうな顔をする。親に頼らないといけない状況なのが悔しいんだろう。
同級の奴らも「親がうるさい」「もう子供じゃないのに」なんて事をブツブツ言ってる。親がいない俺からすれば頼れる相手がいる、うるさいくらい心配してくれるなんて、羨ましいって感想しかないが、同じ年頃のヤツらは総じて親をうざったく思ってるみたいだ。
でも、俺たちガキがなんとか出来ることなんて正直言って限られてる。借りられる助けは借りておくのが吉だ。
「アールサス様の命がかかってるかも知れねぇんだろ。変なプライドは捨てて、ちゃんと頼るべきところは頼っとけよ。それがウルクのためにも、ひいては俺のためにもなる」
「ん、分かってる」
「ならいい。ちょうど魔物も出てきたぜ」
「大丈夫、気配は察知してた」
「上等」
背後から飛びかかってきたワーウルフを振り向きざまに両断し、ウルクは右手の茂みを睨みつける。すぐに気配が霧散して、残りのワーウルフは逃走したのだと分かった。時間的にも体力的にも実に無駄のない賢い戦い方だ。
ウルクは日に日に強くなっている。もう草原にいる魔物程度じゃ相手にもなりゃしない。
月に一度アールサス様のお邸に行く日は、アールサス様と一緒に草原に採取に行く事にしたらしい。その話があってから、急にウルクは剣に迷いがなくなった。
それまでは、自分の命を守るためとは言え、魔物の命を断つ事に若干の忌避感を持っていたみたいで、それが剣の振りを鈍くさせていたように思う。
きっと、アールサス様を自分が守るんだ、って思った事でウルクは覚悟ってもんが出来たんだ。
ウルクの成長は嬉しいけど、それを引き出したのがアールサス様だと思うと胸の中がモヤモヤしてしまう。
そうこうしているうちに、草原を抜けて森に入った。
ウルクの成長に伴って、俺たちが探索する場所もどんどんと奥になっていく。それはウルクが望んだ事だった。
その方が、アールサス様の役にたつ素材が採れるから。
そう、こいつの頭の中はいつだってアールサス様ばっかりだ。
最初は冷たくされてたってのに、今じゃアールサス様だってこいつを側におきたがってる。当たり前だ。こんなに尽くされて可愛く思わないなんて男じゃない。
なんてったって婚約者だし、相思相愛で何よりだ。
分かってる。俺の出る幕なんてないってこと。
なのに、こいつの綺麗な若草色の瞳が俺を映そうとしない事が、悔しくて、悲しくて、しょうがなかった。
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