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第107話 酷い侮辱だ

悔しくて声が震えた。 「そうなのか……?」 「そうですよ。場所代とかグレイグの人件費とか払ったら、オレの儲けなんてほとんどない。でも、今はブランドを構築する段階だからって思ってかなり安い価格で売ってるんだ」 何も分かってない。 オレがどんな思いで採取に出て、グレイグを死なせたかって震え上がって、ギルドマスター達にさんざん怒られて、値付けにだって苦労して、お客さんを前に緊張しながら商売してるか、アールサス様は想像すらした事がないのかも知れない。 「ウルク……」 「だいたい今オレに販売が許されてる物なんて『レア物』で、いわゆる貧乏人が欲しがるような汎用性がある物じゃない。嗜好品やいざという時に使うような少し高級品の要素がある物だけなんだ。あれ以上安くしたら市場が荒れる。……そんな物を、安く買いたいって?」 自分の口から、イヤミたっぷりな声が出てるのが分かるのに、止められない。 「さっき、パネトーラ様の志が立派だって言いましたね」 「あ、ああ、お金があまり無い人に安価で売ってあげたいのは、考えとしてはいいと思って……」 「馬鹿馬鹿しい。本当にそう思うなら、わざわざオレの売り物を安く仕入れる必要なんてみじんも無い。善行を積むなら孤児院に寄付でもした方が余程良い」 「それは、そう、だけど」 「あの差別意識丸出しの方が、貧乏人の事をそんなに親身に考えると本気で思ってるんですか? オレにすら酷いことを言うんじゃないかって心配してたのはアールサス様でしょう」 「……」 もう反論もできなくて、アールサス様は口をつぐむ。 言い過ぎてるって分かってる。でも、もう止まらなかった。 「結局アールサス様は、オレの事なんて信じちゃいなかったんだ」 口から転がり出た自分の言葉に、自分でストンと腑に落ちた。オレがこんなにも悔しくて悲しかったのは、きっと。 「そんな訳ないだろう! 僕はちゃんとウルクを信頼してる」 バッと顔を上げて叫ぶアールサス様に、オレは静かに言い放つ。 「でも、パネトーラ様がオレの売値が高いって言った……その言葉を信じたって事でしょう?」 ハッとした顔をして、アールサス様がうろたえる。 「ち、違う、僕は」 「素材を探して、鑑定スキルもあって、ギルドマスターと何度も打ち合わせて売値も決めて。そこまでして販売してるオレよりも、パネトーラ様の根拠も何も無い言葉の方を信じたんだ」 「す、すまない、僕、そんなつもりじゃ」 悲しそうなアールサス様の表情を見ても、もう悲しさと悔しさ、そして怒りしか浮かばなかった。

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