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第108話 【アールサス視点】きっと深く考えてなかった。

ウルクにそこまでハッキリ言われて、僕は返す言葉が無かった。 ウルクを信じて居なかったなんて、そんな事絶対にない。ウルクよりパネトーラ様を信じたつもりじゃなかったんだ。 きっと深く考えてなかった。 ウルクに嫌な思いをさせずパネトーラ様も満足して、それで他の人が得をするならいいじゃないか。そんな浅い考えだけで言ってしまった言葉が、ウルクを酷く傷つけてしまったんだ。 「……すみません、言い過ぎました」 怒りを押さえつけるように低い声で、ウルクが唸るみたいに言う。 「アールサス様がオレを信頼していないのなんて、分かりきった事だったのに」 ウルクの言葉に、息が止まりそうなほど衝撃を受けた。 「! 信頼してないわけじゃ」 「でも、そういう事でしょう?」 ウルクがフ、と微笑む。その眼からはこれまであった親しみのようなものは、綺麗さっぱり消えていた。 「でも、パネトーラ様にだけ練成物を安く売ることも、錬金術師を紹介することもできないという考えは変わりません。それにアールサス様がパネトーラ様のために何か作るのは絶対にやめてください。……アールサス様の身を守るためです」 「わ、分かった」 「オレも、もう市場ではアールサス様の練成物を売るのはやめにします」 「えっ!!??」 「オレ、アールサス様を困らせる事になるなんて思ってなかった。オレが市場で目をつけられさえしなければ、アールサス様にこんな面倒な思いさせることも無かったんだ」 「ウルク……」 「そもそもアールサス様の目的は薬の精製だったんだから、質のいい素材をお渡しするだけで良かったんですよね。オレが余計な気を回さなければ良かったんだなって」 にっこりとウルクが笑う。 「アールサス様がこれからもオレが錬成物を買い取る事をご希望ならオレが買い取るし、オレが信頼できないなら商業ギルドに直で卸してください。……ああ、それ以外はパネトーラ様含め絶対にダメです。ボラれて死ぬまで搾取されるのが関の山だ」 「待ってくれ、ウルク。僕は本当に、ウルクを信頼してる」 「商業ギルドに話は通しておきますので」 「ウ……ウルク、待ってくれ!」 まるで聞こえていないかのようにウルクはスタスタと部屋を出て行ってしまう。もう振り向きもしない。 「待っ……」 パタン、と小さく音を立てて扉が閉まって、僕は途方にくれた。 あんなに怒ったウルクを見たのは初めてだ。きっと僕は、ウルクに一番言っちゃいけない事を言ったんだ。 素材集めも市場での商売も、ウルクがどれだけ真摯に準備をして臨んでいたか、僕が一番よく分かっていた筈だったのに。

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