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第109話 【アールサス視点】自分のバカさ加減が嫌になる
自分のバカさ加減が嫌になる。
言葉もなく扉を見つめていたら、その扉がそっとノックされた。
「アールサス様、入っていいですか?」
ウルクの父、ボルド氏の声だった。
「……どうぞ」
出そうになっていた涙を慌てて引っ込める。でも、入ってきたボルド氏が困ったように笑ったから、グス、と鼻をすすった音は聞こえていたのかもしれない。
「なんか今、ウルクが鬼みたいな形相で出て行ったけど、なんかありました?」
「……」
言いにくい。
でも、あんなにも怒ってしまったウルクに今後どんな風に話しかけたらいいのかも分からなくて、僕は、正直にこれまでの経緯を話してみる事にした。
パネトーラ様に話しかけられた事。
ウルクの事を褒めてくれるパネトーラ様に好感を持った事。
順を追って訥々と話す僕の言葉を、ボルド氏は遮ることもなく穏やかに聞いてくれる。それに勇気を貰って丁寧に話した。
話も終盤に差し掛かりウルクが怒った内容を伝えると、ボルド氏は「あー……」と納得したような顔をした。
「それはアールサス様が悪いですね」
「それは分かってる……」
我慢した涙がまた出てきた。ボルド氏がスッとハンカチを差し出してくれて、僕はグスグスと鼻を鳴らしながら受け取る。
「もうご理解いただいているかとは思いますが、一応はっきりさせておきますね。まず、販売価格についてはウルクの言う通りアイツの手元に残る分はほとんどない筈ですよ。オレなら少なくともあと一、二割は高い価格で販売する」
「……」
こく、と頷く事しかできなかった。
「ただでさえウルクは安値で売ってた。ではなぜそのパネトーラ様は貴男にそんな事を言ったんでしょうね」
「分からない。パネトーラ様はお金があまり無い人にも安く売ってあげたいって……立派な志だと思ったんだ。けれどウルクの言う通り、パネトーラ様の普段の言動とは結びつかない考えだ」
「そうですね。パネトーラ様と言えば確かトニング伯爵家の五男でしょう? オレも噂は聞いています。少なくとも、貴男に言った通りの理由だとは到底思えない」
「……!」
ボルド氏にもパネトーラ様の平民嫌いが知られていることにびっくりした。
「ってことは、まぁ最初に言ってた事の方が目的には近いんでしょう」
「最初に言ってた事……」
「パネトーラ様は、市場でウルクが売っていた練成物が欲しかった。練成物を安く売って欲しい、錬金術師を紹介して欲しい、そう言っていたんでしょう?」
「うん……」
「アールサス様にも、もっと色んな事を、ちゃんと説明しておくべきでした」
すみません、と謝ってボルド氏が話し始める。それは、僕にとっては衝撃的な内容も含まれたものだった。
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