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第110話 【アールサス視点】苦い気持ち

「まずパネトーラ様については、ひとつ思い当たる点があります。ウルクが最初に市場で露店をやった時、かなり熱心に継続的に練成物を買い取ろうとしてきた異国の男がいて、どうやらパネトーラ様がその男にご執心の様子だったらしくて」 「えっ!!!??」 聞いてない。そんな事、ウルクはひとことも言っていなかった。 「市場ではパネトーラ様に色々と嫌な事を言われたようですが、アールサス様にとっては良い友人なのかも知れないから、嫌な話をわざわざすることも無いだろうって言ってね」 「知らなかった……」 「ですが、パネトーラ様の目的が錬金術だったなら、やっぱりアールサス様のお耳にも入れておくべきでした」 またボルド氏がすみません、と謝ってくれる。 言って欲しかった、そしたらもっと気をつけたのに……と一瞬思ったけれど、僕だってウルクに心配をかけたくなくて、言わなかった事もある。 「……僕も、パネトーラ様が練成物を欲しがっている事、しばらくはウルクに言えなかった。嫌な思い、させたくなくて」 「ウルクの事を気遣ってくれたんですね、ありがとうございます」 そう言ってくれた声が優しくて思わず顔を上げたら、ボルド氏が本当に優しい顔で僕を見つめてくれていた。 ああ、ウルクはとても大切にされているんだな、と思った。 「これからはお互いに、気になった事は共有するようにしましょう」 コク、と頷く。ボルド氏の言葉は、信じられる気がした。 「それからもうひとつ。ウルクがあれ以上安く売ると『市場が乱れる』って言ったでしょう。アールサス様は、その意味を正しく知る必要がある」 「……?」 「まぁパネトーラ様は安く仕入れたところで安く売るつもりはなかったと思いますがね、いい機会だから理解しておいた方がいいでしょう。今後似たような事がないとも限らないですからね」 「はい……」 僕は苦い気持ちを抱きながら、ボルド氏の話に耳を傾ける。 「安く物が買えるのは、確かに買う人にとっては良いことでしょうね。誰だって少しでも安く、良い物を買いたいと思ってる。でも、現実はそう簡単にはいきません」 コク、と頷いた。 「実際にはその安い物は金を持った商売人が纏めて買い上げて、適正価格かそれ以上の価格で販売する。多分パネトーラ様とその後ろにいる商人はそうしようと思ってるんでしょう」 言われたらきっとその通りだと思えてくる。 パネトーラ様は自らの意思でその男に加担しているのだろうか。もしかして、脅されたりしているのだろうか。 ……分からない。

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