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夫の呼ぶ声が聞こえてくるが、踏みとどまるわけにはいかない。 脇目を振らず、ただただ一目散に走る。 出来るだけ碧人から、離れて。 離れて、離れて、それから。 それにしてもやはり、着物な上に下駄であるから、走りにくい。 だから、思っていたよりも離れてないだろうし、そして。 「おう、大層なべっぴんさんだな」 「何をそんなに急いでいるんだい?」 外へ出、行こうとした方向に派手な髪色に派手な服と、いかにもな男性二人が声を掛けてきた。 葵人の見た目から目立つのは仕方ない。が、この状況はまずい。 「ぼ⋯⋯私は、これにて失礼します⋯⋯──っ」 「おいおい、ちょっと待ってよ」 横切ろうとしたが、呆気なく行く手を阻まれる。 「お嬢ちゃん、誰かに追われているのか?」 「なんなら、俺達が匿ってやるよ。礼はそうだな⋯⋯体でよしよししてもらおうか」 「お、いいな! こりゃあ、愉しみだなぁ!」 二人は揃って、下卑た笑いを浮かべていた。 何がそんなに面白いのかという怒りと、このままだと、危ない目に遭う。 碧人に怒られる方が十分にいいと、来た道を引き返そうとするのを、「おい!」と太い手に掴まれた。 「い⋯⋯っ!」 「助けやるって言ってんのに、何逃げようとしてんの?」 「わっ、私は大丈夫なので、離してくださいっ!」 「大丈夫じゃねーだろ」 「──下水道に突っ込んだ汚らわしい手で、触ってもらいたくないね」 掴まれた男の丸太のように太い腕を、掴む者がいた。 この声は。 「なんだてめぇ」 「君達こそ、僕の大切なものに触れて何のつもり⋯⋯?」 絶対零度の冷ややかな視線を向け、男二人の表情が固まったが、それも数秒のことで、嘲笑った。 「ハッ、大切なものだったら、肌身離さず身につけておくものなんじゃないか、若造?」 「⋯⋯おいたがすぎるようだ」 独り言にも似た、淡々とした物言いと共に、掴んでいた手に力が入ったようだ、男が悲鳴を上げる。 その怯んだ隙を狙い、手首を捻り、踏ん張りきれてない足を軽々しく払った。

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