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「え〜〜? そーなの?」 「そうだよ。だから、新と真は先に席に着いていて」 「えぇー⋯⋯。おかーさまといっしょにいきたい、けど······」 それは葵人も同じで、新と真と一緒に食事する所まで行きたい。 しかし、このような状況で言えるはずがなく、「お父さまの言うことが聞けましたら、あーんといい子いい子をいっぱいしてあげますよ」と話を合わせた。 「あーんと、いいこいいこしてもらいたいけど······」 「おかーさまがいうなら······いこっか」 「うん」 新が手を差し出すと、真は素直に応じ、「いってくる!」と二人は駆け出して行った。 「葵」 小さな後ろ姿を微笑ましげでも悲しげな目で見送っていると、静かな声で呼ばれた。 つられて、振り向く前に顎を持ち上げられたかと思うと、唇に軽く触れた。 「二人に着替えさせてもらいたかった?」 誰にでも分け隔てなく接してくれそうな、穏やかな笑み。 一見、好印象を与えるその表情は葵人を震え上がらせるのに充分な圧だった。 「······ううん。新と真よりも······碧人さんに着替えさせてもらいたいな」 「ふふ······。葵の甘えん坊さん。いいよ、着替えさせてあげる。······けど、その前に」 後ろからふっと抱きしめてくるや否や、臍辺りを触った。 「そういえば、起きてから行ってなかったよね。行ってから着替えさせてあげる」 「······うっ、んっ」 そう言って、ぐっと押してくるものだから、呻き声を上げてしまった。 体の震えは恐怖によるものだが、碧人にそう言われると催したくなってきた。 「僕の首に手を回して」と言う夫に、どうしたって自分では出来ないため、甘んじてそれを受け入れた。

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