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第十二話
玄と仲違いした日もきゅうせん様はこりずに現れ、抵抗できない茶倉を犯しぬいた。
『あっぐ、ふっぐぅっ』
くすくす、くすくす。
くすくす、くすくす。
見えざる触手に四肢を絡め取られ、布団に突っ伏し悶える練の耳を、意地悪い忍び笑いが突き刺す。
首をねじり声の出所を見れば、障子の破れ目から何対も目が覗いていた。
とっくに寝付いたものと思っていた子供たちが、化け物にもてあそばれる茶倉の痴態を見に押しかけていた。
『なん、で』
思考の空白に疑問が結び、呆然と呟く。
障子の向こうに詰めかけた寝間着姿の稚児たちは、夜の廊下で押し合いへし合い、くすくすくすくす笑っている。
『アレがきゅうせん様?』
『どいてよ、よく見えない』
『見たい見たいすんごい化け物見たい!』
『本当にいんの?暗くてわかんねえ』
『苗床が一人で暴れてるだけじゃん』
『ばーか、お前の力が弱えから視えないだけだろ』
『そーゆーお前には視えてんのかよ』
『なんで裸?』
『べとべとできったねえ』
夜闇に紛れ、かすかに漏れ聞こえる会話は悪夢を思わせた。だしぬけに触手の束縛が強まり、腕を拉ぐ激痛に仰け反る。
『!いッ、ぐ』
きゅうせん様が腋下と膝裏に触手を通し、大股開きで固定したのだ。
『いやや、いやや……』
打ち萎れて泣きじゃくる茶倉の姿も、無邪気で残酷な子供たちには面白い見世物としか映らない。
『なんでアイツこっちに股おっぴろげてんの?』
『よく見てほしいんじゃねえか』
『なんかコーフンしてきた……』
『ちょっとー変なもの引っ張り出さないでよ男ってホント不潔!』
男の子もいれば女の子もいた。
みんな茶倉を嗤っていた。
互いの肩を叩いてふざけあい、かと思えば興味津々身を乗り出し、我も我もと障子に群がって倒錯の極みの痴態に見入っていた。
『ぉねが、ぬいて、きゅうせん様、ぁうぐ』
後ろを向くのは禁忌。
きゅうせん様の姿を見るのは不敬にあたる。
されども正面には子供たち。障子は所々破け、無数の目が覗いている。
『ホンマっ、は、ホンマにこんなことしたないねん、ンんっぁぐ、僕、ッふうっう゛っ、やらしい子ちゃうねん、ぜんぶきゅうせん様のせい、で、体が勝手にぁあっあ』
後ろも地獄、前も地獄。
本当に怖いのは化け物と人どちらなのか。
『ごめんなさ、ぁあっ、あっちいって、ぁンあぐ、見んといて』
あの夜あの時に至るまで、あそこまで同胞に憎まれている事に気付かなかった。
茶倉練は稚児の戯の優勝候補筆頭。
誰も彼もがその動向に注目し噂する中、その他大勢で括られた子供たちの不満の矛先はどこへ向かうのか。
能力で劣る同業を見下して憚らぬ世司の言動が、反感を煽っていたのは言うに及ばず。
『化け物なんかいねえじゃん、アイツ一人で悦んでるだけだ』
『気配はするぞ』
『どんな?』
『うじゃうじゃ……うぞうぞ?』
『背中で蠢いてる』
『湿った土の匂い』
『気持ちよさそうな顔』
『すんごいかっこ。恥ずかしくないのかな?』
『見せ付けてんじゃねえの』
『色白いなあ、女みてえ』
『ちんちん尖ってきた!』
『あの年で露出が趣味とか終わってるぜ』
きゅうせん様は茶倉一族に取り憑いており、血縁の他は一定以上の霊力の持ち主しか姿を見る事が叶わない。
いかに優れてるといえど稚児たちの霊力はまだ不安定ゆえ祟り神の輪郭をぼんやりとしか視認できず、茶倉が自慰に耽っていると誤解する。
『ひっぐ、ん゛んん゛っ、う゛~~~~~~~ッ』
汚辱にまみれた顔を見られまいと深々うなだれ、抽挿の律動に合わせて上擦る嗚咽を磨り潰す。
『いい気味』
『ざまーみろ』
上半身を縛す触手が陰核の如くぷっくり腫れた乳首をくすぐり、下半身に絡んだ触手が粘膜をじゅぷじゅぷ巻き返す。
『あ゛ッ、あ゛ッ、ぁああっ、ンあっふぁあ』
なんでこんな目に。
僕が何したっていうねん。
『かわいそー泣いちゃったー』
『茶倉の跡取りも案外たいしたことねえな』
視えざる触手が体に巻き付き、激しい抽挿を開始する。
薄桃色に芽吹いた突起をねちっこくいじり、小ぶりな尻の奥をぐちゃぐちゃかき回し、障子に写り込む影絵に向かい、華奢な脚をさらに大きく開かせる。
『おんなのこ、見られたないっ、恥ずかしッ、おもんない、あっちいって、んっぐ、ふっぐぅ゛っ、おちんちんいじらんといて』
体が燃え上がる。喘ぎが喉に詰まる。力任せの抽挿に合わせて腰が弾み、汗でしっとり湿った前髪がばらける。
膝を畳もうとするのを許さずこじ開け、紛れもなく感じている証に赤く尖った陰茎を暴く。
障子に穿たれた穴から熱っぽい視線と笑いが降り注ぎ、火照りを帯びた裸身がちりちり疼く。
『きゅうせん様っ、ぁかん、やッ、も、いっぱいでる、ィく』
何対も並んだ目が泣き叫ぶ茶倉を視姦する。体内に栓をした触手が膨らみ、醜悪な肉瘤が前立腺を殴り付け、不規則な痙攣を引き起こす。
心にどす黒い濁りが生じ、底なしの闇に飲まれていく。
『ぁッ―――――――――――――――――……』
障子を破く勢いで粘っこい白濁が飛び散る。
余興に飽いた子供たちが嬌声を上げ、ふざけた声真似をしながら逃げ散っていく。
『苗床が種付けされた!』
『白い小便もらした!』
『おちんちんいじらんといて~~だって、ばっかで~~~~!』
漸く触手から解放され、ぐったり布団に倒れ込み、まんじりともせずこちらを見ている玄に向き直る。
なんで連中にばれた?
答えは簡単、コイツが言いふらしたのだ。
異種姦の事実を知るのは布団を並べて寝ていた玄だけ。犯人は消去法で絞られる。
二人の亀裂は決定的になった。
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