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第15話

敬吾は有希が何か悩んでいるか、あるいは隠しているかしていると薄々感付いていた。ただそれが何なのかは分からなかった。あれこれ考えてはいるがどれも決め手にならない。  まさか浮気? いやさすがにそれは無いな……いったいあいつは何を思い悩んでいるんだ? 有希は真面目なだけにいったんネガティブ思考に陥ると浮上に時間がかかる。早めに対処する必要があると考えて直截的に聞くことにした。 「何を悩んでいるんだ?」  久しぶりに明日は二人とも休みという前日敬吾の部屋で手料理を食べた後だった。敬吾にしては予め考えていたことだが有希は意表を突かれた。 「えっ……何って……」 「お前が何かに悩んでいるってことは分かる。ただそれが何かは分かんないだ。なあ有希、俺に隠し事するなよ。聞かせて欲しい」 「あーそうだな……」  有希は驚きと共に観念した。あれこれと悩んでいたことお見通しだったってことか、敬吾には敵わないと思った。 「うん実はさあ、愛知の一宮の病院から誘いを受けているんだ」  有希はこれまでの経緯を順を追って話した。 「俺が思うにいい話だと思うぞ。一宮って岐阜からも近いんだろ。何より有希の医師としてのこれからにプラスになることだろ。迷うことない行ったらいいんじゃないか」  有希は敬吾があまりに簡単に行ったらいいと言ったことに驚いた。遠距離なんて気にならないのか……。悲しくなってきた。 「でも……でもと……遠いだろ」  悲しくて涙まで出そうなのを必死にこらえて絞り出すように言った。敬吾はそんな有希を抱き寄せ頭を慈しむように撫でた。 「東京と一宮、離れ離れになるのを悩んでいるのか? お前はまだ俺の事分かってないな、俺が有希を離すと思っているのか? 絶対に離さない、俺も一宮に行く」 「えっえー!」 「何をそんなに驚く?」 「だって行くって、そんなに簡単なことじゃないだろ。仕事だってどうするんだよ」 「俺は看護師だぞ、看護師資格があれば仕事はどこだってあるよ」 「それはそうだけど、僕は元々向こうの出身だけど、敬吾さんは東京で生まれてずーっと今まで東京だったわけで岐阜とか一宮とは何の縁もないし……長男だろ? 家の事とかもあるだろ?」 「有希の故郷だぞ、それだけで所縁はある。俺にとって行ってみたい土地だ。それに今時長男がどうのなんてないよ。親父や弟も俺がゲイだってことは知ってるから俺に期待してない。弟は結婚して子供もいるから後は弟にってのは親父や俺も思ってるし弟もそのつもりと思う」 「岐阜や一宮に行ってみたいって思ってくれるもは嬉しいけど……お父さんや弟さんには……」 「有希あのな、お前が行く所に行くか行かないかを決めるのは俺なんだよ。俺の仕事や家族の事をお前があれこれと思い悩むなよ、そのうち禿げるぞ」 「ははっ禿げって……禿げたら嫌いになる?」 「お前がツルツルのスキンヘッドになっても嫌いにはならない。って今はその話じゃないだろ馬鹿!」 「ごめん、そうだった」 「お前が一人で思い悩むってことは、俺はそんなに頼りないか?」 「それはないよ。むしろ頼り過ぎて重いのではって思うくらいだから」 「だったらもっと頼れよ。重いなんて思っていない、俺はもっと頼って欲しいし受け止められる男でありたいといつも思っている。ただお前が色々考えることも分かる。だから悩む前に話して欲しいんだよ。たとえすぐに解決できなくても二人で話し合っていけばいいんだよ」 「うん、そうだね……ごめん」  分かってくれたらいいんだとも言うように敬吾は有希を抱き寄せ口付けた。唇を啄むようなバードキスに有希は感じた。この先考えねばならない事も多いと思うが悩みの発端が解決した安心感から有希は深い口付けを求めた。  セックスはもとよりキスも受け身な有希からの深いキスに敬吾は一瞬驚いたものの喜びと共に受け止めた。  男性経験の無かった有希の身体を徐々に開いてきた。自分の形を覚えさせ受け入れる喜びを教えてきた。有希は従順だった。時に戸惑いを見せながらも敬吾の導きに応じてきた。だが未だ中で逝くことはなかった。  そろそろか……今日は中で逝かせたい。そうすればもっと妖艶な魅力溢れるようになると敬吾は期待した。  敬吾は焦らした。焦らして焦らして追い込んだ。焦らされた有希は堪えられない。色づいた身体を震わせながら甘い喘ぎを漏らす。 「あっ……んっああー……」 「どうして欲しい?」 「あっ……うん……欲しい……」 「だから何が欲しいんだ? ちゃんと言えたらしてやるぞ」  敬吾の熱い剛直を奥深くまで入れて欲しい。そして我を忘れるようなあの境地に導いて欲しい。欲しいけど恥ずかしい。恥ずかしいけど敬吾は言わなければしてくれないだろう。有希は小さな声で囁くように言った。 「敬吾さんの……ぼ僕の中に入れて……逝きたい……」  ちゃんと言えたないい子だと言うように有希の背を撫でながら有希の可愛い蕾に己の剛直を挿入した。有希のそこは待ち望んでいたかのようにスムーズに敬吾を受け入れた。敬吾は有希の感じるそこを奥深く突き上げた。ここを付いてやると有希は激しく感じる。 「ああーあっだめ……ああー……もっと」 「だめなのか、もっとなのかどっちだ?」 「もっと……もっと」  息も絶え絶えに強請った。このまま逝きたい。あと少しで欲望を放出できると思ったその時敬吾に止められた。有希の高ぶりは敬吾に握られ放出を許されない。 「ああんっ……どうして逝きたい……逝かせて」 「もう少し我慢しろ」  敬吾は有希のそれを握ったまま攻め上げる。 「あっああーだめ……なんか……くる……怖い……」 「怖くない、大丈夫だ俺がついている」  もう片方の手で有希の手をしっかり握りそのまま奥深く突き上げる。 「ああっああー逝くー」  色づいた身体を仰け反れせて震える声で半ば叫ぶようにして意識を失った。有希は初めて放出することなく中だけで逝った。  有希が意識を取り戻し目を開けると敬吾に見下ろされていた。優しい顔に安心したが胸に顔を埋めた。物凄く乱れたという自覚はあり恥ずかしくて顔を見られない。 「うん……なんだ……どうした」  有希の頭を優しく撫でながら敬吾は訊ねた。照れて顔を隠す有希が可愛いくてたまらない。もう少しからかいたくなった。 「そんな可愛い事してるとまた襲われるぞ」 「はあっ! 襲うってなんだよ」有希が敬吾の胸を押し返した。 「ははっやっと顔見せたな」 「もうー僕の事からかってるよな」そう言って布団の中に潜り込んだ。 「ごめんごめん、からかってない顔見せろよ、なあ……」  暫く布団の上から背中を宥めるように擦ってやると有希が落ち着いたのか顔を出した。その様が破壊的に可愛くて敬吾はぎゅっと有希を抱きしめた。 「なあ、良かったか? 今日の有希はいつもにも増して最高だった。だからお前も良かったんじゃないのか?」 「うん……僕も……良かった……良かったけど……」 「けど、なんだ」 「怖いんだ……良すぎて自分を失いそうで……凄く乱れたって思うし、なんか流石に引くだろ?」 「引くって俺がか? それは全く無駄な心配だな。むしろもっと乱れてもいいし、そうさせたいって思ってる。俺に抱かれる時は他の事何も考えず我を忘れて快感に溺れて欲しい。いつもそう思って抱いている」 「声も……大きいだろ?」 「だから声も心配いらない。ここは角部屋で隣に聞こえる心配もないから聞いてるのは俺だけだよ。俺は有希の声が聞きたい。お前が可愛い声で啼いてくれると物凄く興奮する」 「かっ可愛いって! 三十過ぎた男に可愛い連発って、もうー敬吾さんちょっと感覚ずれてないか。そうだよ、絶対おかしいよ」 「なんでだよ、別におかしくないぞ。俺に言わせればお前は可愛いのかたまりだぞ」  有希は更に啞然とした。いったいこの人は何を言ってるんだ。僕が可愛いのかたまりって……。そんな有希に敬吾は更に言い募った。 「なあ、前にも言わなかったか? 歳は関係ないんだよ。十代でも老けて可愛げのないやつもいるし、五十、六十過ぎても可愛い人もいるだろ? お前は可愛いんだよ。いい加減自覚しろ。深海に一人で行かせないのもそれだぞ」 「えっそうなの?」 「はあっ、なんでだと思ってたんだ?」 「いや……一人では危ないってか、うん、そんな感じ」 「だから危ないのは可愛いからだろ。現にあの時狙われてただろ」  そう言えばそうだった。だからといって全てに納得したわけではなかったが、敬吾の自分を思う気持ちは十分に伝わった。敬吾の愛に溺れていく自分に戸惑いはある。正直怖さもある。でも今は委ねていいんだと自分に言い聞かせた。そしてそっと顔を敬吾の胸に埋めた。  敬吾は有希の戸惑いも分かっていた。そんな有希だから愛おしさも増す。戸惑いや怖さも突き抜けて自分との愛に溺れて欲しい。そう思いながら有希を抱きしめたまま眠りについた。

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