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第23話 白旗

「ま、システム側の説明はそういうことだ。あとの営業戦略はまかせたよ」    午前中、叔父である社長と三人で新しい企業向けソフトについて会議だった。  叔父は昼になったので、沢田と仲里を会議室に残して退出した。   「まかせたよって言われてもなあ……問題はすでにソフト導入済みの会社だよなあ」    ぐるぐる考え込む性格の仲里の思考を止めるのは、沢田の仕事だ。   「ま、当たって砕けてみないと仕方ねえだろ。いくら考えたって営業なんか思い通りにはいかねえって」 「しかし作戦は必要だろ?」 「もう昼だし、昼飯食ってから考えようぜ。腹が減っては戦はできないって言うだろ?」 「まてよ……維持費をコストダウンすれば、少しは話の持っていき方を……」 「ほら、飯行くぞ」    ぶつぶつ独り言を言いながら考え込もうとする仲里の腕をとって、沢田が立ち上がらせる。   「忍は考えすぎ」    あっという間に抱きしめられて、唇を奪われる。  しまった……油断した。   「こ、こらっ!社内でそういうことっ……ふ、んん……」    口をこじ開けられ、温かい舌がすべりこんでくる。  ゆっくりと舌をなぞるような動き。  びくん、と身体を震わせて、仲里の身体から力が抜ける。    落ちた、と沢田は心の中でガッツポーズをする。  仲里をキスで落とすのは朝飯前だ。  これぞオフィスラブ、と思う存分キスを堪能していると、突然我に返ったように仲里が沢田を突き飛ばす。   「だ、ダメだって! こんなところでっ!」 「誰も見てないだろ」 「と、とにかくっ、会社では禁止!」    赤い顔をして会議室を飛び出した仲里を、沢田は追いかける。  そんな顔して飛び出していくほうがアヤシイんだけどなあ……   「どうかしたのか?」    社長が、顔を上げて飛び出してきた仲里に不審な目を向ける。   「い、いや、その、ちょっと腹が痛くて」    仲里は慌てて部屋を出ると、トイレに向かう。    章吾のやつ……  勃つまですることないだろっ!    トイレに駆け込むと、あとから沢田がついてきた。   「なんだよっ! トイレまでついてくるなっ!」 「俺もトイレ」    沢田がいたら出すものも出せない。  こんな状況で、モノを取り出せば沢田の思うツボだ。  排泄とセックスが同じ器官、という人間の構造も困ったものである。   「見ててやるよ、忍の放尿シーン」 「バカっ! するかっ!」    思わず殴りかかりそうになった仲里の腕を沢田ががっちりとキャッチする。  そのまま沢田は個室に仲里を引っ張り込んでしまった。   「な、何すんだよっ」 「やっぱり」    クスクス笑いながら、沢田は仲里のモノをズボン越しにまさぐる。  敏感な仲里が、ちょっと濃厚なキスをすればこうなることも想像済みだ。   「や、やめ、ろっ」 「静かにしろ。声出すと人が来るぞ」    素早く仲里のモノを引っぱり出すと、沢田は唇をふさいで抱きすくめながら、それを扱き出す。  すでにぐしょぐしょに濡れている先端を指先でぬるぬる刺激しながら扱くと、腕の中で仲里が悶え始める。   「抵抗するな。早く出しちまえ」    沢田が低く囁き声で命令すると、仲里はびくっと固まり、身体から力が抜けたようにしがみついてきた。  手の動きを激しくしていくと、ぶるぶる身体が震え出す。   「しょ、ご……出るっ」 「ああ、いいぞ」    ぐりっと先端の割れ目に指先を食い込ませてやると、仲里はひ、と悲鳴を上げそうになり、自分からむしゃぶりつくようにキスをする。  声を出すよりはキスのほうがマシだと思ったのだろう。  強烈なキスと沢田の手の動きで、びくびく痙攣しながらイってしまった。   「すげえ勢いで出たな」    沢田はクックと笑いながら、後始末をする。  我に返った仲里はユデダコになっている。  トイレの中で、自分だけイかされてしまうなんて。    午後から仲里はずっと不機嫌だった。  本当のところは別に不機嫌じゃないのだが、そういう顔をしていないとまた沢田がいつ襲ってくるかわからない。  帰り道でもまだ、ふたりは痴話ゲンカをしていた。   「忍、機嫌直せよ……」 「お前があんなことするからだろ!」 「だって、あのままだったらお前も困っただろ?」    それはそうなんだが……と仲里はすぐに勃ってしまう自分の下半身を恨んだ。  なんせ、何年もセックスなんかしたことがなかったから、沢田のやることはいちいち刺激的すぎるのだ。  やっと帰宅して、玄関に入った途端に、またしても沢田に壁に押しつけられる。   「章吾っ! いい加減にしろっ!」 「どうして。もう家ん中だからいいだろ?」 「何も玄関でさからなくてもいいだろう!」 「キスだけ。それ以上はしない」    唇をふさがれて、とろり、と仲里の脳はマヒする。  キスというのは、麻薬性でもあるんだろうか。  沢田の首に腕を回して、仲里は白旗を上げた。    俺の負けだ。  章吾のキスには勝てない。   「な、頼むから……」 「なんだよ」 「キスしてもいいから、舌入れるのは勘弁して。そういうのはソファーとか、ベッドの上だけにして」    仲里は涙目、である。  こんなことを繰り返されては、仕事など手につかない。   「なんで」 「立ってられなくなるか……んんんっ」    再び甘いキスに攻められて、仲里はガクリ、と身体の力が抜ける。   「こういうことね」    クスクス笑いながら沢田が勝ち誇ったように、仲里を抱き上げる。   「でも、ちゃんと勃ってるみたいだけど?」 「そ、そっちの勃つじゃないっ!」    その日、沢田と仲里の間には新しい規則ができた。   『家の外では舌は入れない』  【番外編SS 忍の裏日記 ~End~】

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