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3.
紙袋の中にある物を見つめて小さく笑っていると、隣に並んで歩いていた碧人が一緒になって覗き込んでいた。
「毛糸を買うぐらいなら、僕だけでも良かったんじゃない?」
「ううん。あの子達にもあげる物だから、自分の目で見たかったんだ」
「そう。⋯⋯でも、そのおかげで、昨日は楽しめたしね」
「⋯⋯!」
耳元に囁かれ、瞬間、火がついたかのように顔が熱くなった。
みんなで一緒に寝ている寝室にて、子ども達が寝ている横で、碧人を誘い、起こさないよう、どうにか悦ばせることが出来た。
⋯⋯声を押し殺して、悦ばされたのは自分の方だが。
「こんな所でそんなこと言わないでよ!」
「僕は何も言ってないよ? ただ楽しかったね、って」
子ども達の無邪気な笑い方とは違う、心の底まで見透かすような、妖しく悪戯な笑みで言われ、墓穴を掘ってしまったとも思い、「碧人さんなんて、嫌いッ!」と彼から離れたくて、足早と去ろうとする。
が、すぐに肩を強く掴まれ、無理やり顔を向けられた。
「⋯⋯何度嫌いって言っても、その分、僕は葵のことを好きって言うし、離れようと思っても、離れられないからね」
「⋯⋯っ、は、離してっ!」
「言っても聞かない哀れ子は、体で教えないといけないね⋯?」
「⋯⋯っ」
這うように添えられた腰辺りに、寒気にも似たぞわっとしたものが、そこを中心に広がっていく。
口では嫌と言っても、長年刻まれた快楽を欲してしまっている。
ほしい。
口の中で言った言葉は、これ幸いに碧人には聞こえておらず、揉み合いで零れ落ちた毛糸玉を拾っていた。
それを礼をそこそこに紙袋に戻す。
「ところで、毛糸で何を編むの?」
「教えません!」
「そっか。でも、葵って編み物をしたことなかったよね」
「これから頑張るの!」
「そう。楽しみにしてるね」
碧人さんにはあげないから、と言いかけたものの、また彼の思う壺にされそうで言葉を呑み込んだ葵人に気にしている素振りはせず、「そういえば、真から落ち葉を紙に貼ったものをもらったんだけど」と話題を振ってきた瞬間、「可愛いでしょう。あの子達が一生懸命集めた落ち葉からそうしたの。しかも、提案したのは真なんだよ」とつい興奮気味に返してしまったことにより、ある意味碧人の思う壷になってしまったことは、言った後に気づくのであった。
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