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第3話

夏休みに、タイムカプセルを埋めようと言い出したのは宇佐美だった。 タイムカプセル──その響きにワクワクした。海賊の秘宝を手に入れたも同然の気持ちで勢いよく頷く。 「うん、やろう!なに入れる?」 「未来の自分とお互いへの手紙。あと好きなもの」 「手紙?自分と──宇佐美にも……?なに書きゃいーんだ」 「それは自分で考えてよ。書くことないのか?冷てえな」 「言ってないじゃん!そんなこと」 「……じゃあちゃんと書けよ。俺も書くから。そんで十年後、一緒に開けよう」 「十年後ってすごい先だな。約束だよ、忘れんなよ」 「お前こそ」 進路の話をした後の出来事だった。だからあの時の『答えは十年後』は、このことなのかと漠然と思う。 そこから先は思い出したくない。頭を抱えて床を転げ回りたくなる。 ──俺が宇佐美宛てに書いた手紙は、ラブレターに相当する内容だった。相当など、回りくどい言い方になるのはワケがある。覚えていたくないのに、頭に刻み込まれて消えないあの文面のせいだ。 『俺の欠けた闇に一筋の木漏れ日を照らすのはお前しかいない。真実の世界が二人を祝福するだろう。無垢な太陽が永劫に輝きを放ち、その翼が自由を失うことがないよう俺は今、願っている……』 とかなんとか……。 (うああぁ、黒歴史!!!暗黒史!!!だってあの時はカッコイイと思っちゃったんだ!それに十年先とか本気で来るとか考えらんなかったんだよ。自分の未来なんか理解できてなかったんだ。こんな風に、本当に宇佐美と一緒に掘り返しに来るなんて、そしたらどうなるかなんて、想像できなかったんだっ!) 実際、再会がなければ実現していたかも怪しい。だがここまで来てしまった。 宇佐美と帰省した俺の真のミッションは、タイムカプセルを掘り出した後、手紙を抹消することにあった。絶対に奴には見せない。 完全に宇佐美への気持ちが消えていたなら、一緒に腹を抱えて読めたかもしれない。でも──だめだ。 セクハラ一連での動揺ぶりで無理だと分かった。笑って誤魔化すなんて絶対、出来っこない。

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