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第5話

俺が記憶の底に沈んでいる間、宇佐美は何も言わなかった。腕を組んで杉に寄りかかり、どこか遠くを見ている。 「──やんだな」 宇佐美が木の下から出て手のひらを仰向けた。黒い雲は通り過ぎている。 「うっし、やるか」 軍手をはめ、ショベルを持った宇佐美が気合を入れる。もうすぐアレが掘り出されると思うと複雑だ。 (俺も純粋にこの状況を楽しんでやりたかったよ) 具体的になんと言って手紙を隠すか考えてない。だけど例え喧嘩になっても封印しなきゃだめだ。この気持ちがバレたらさっきみたいな思い出まで穢すことになる。俺のじゃなくて宇佐美のだ。そんなこと──しちゃいけない。 「手が止まってるぞー」 直前の通り雨くらいでは土はちっとも柔らかくなっていない。汗だくになって1mは掘った頃、ガツンと硬い手応えがあった。腕を突っ込んで、ポリ袋を何重も重ねた中にあるクッキーの缶を取り出す。 掘った穴には土を戻す。埋めるのはあっけなかった。 宇佐美がポリ袋を破いて泥だらけの軍手を外した。缶にはまだビニールテープが貼ってある。所々錆びているが穴が開いたりはしていない。 「どこ置いても汚れるから、車に戻ろう」 宝物のように缶を大事に抱え、宇佐美が立ち上がった。

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