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第5話

「止めとけよ。そんな誰にでも下心ありの優しさ見せる男なんざ、恋人にしたら、また泣く羽目になるぞ」 「俺に下心があるかなんて、あんたに分かるわけ? 」  夏川の声が剣吞さを増す。  ふいに朝霧のスーツが引かれる。 「みーくん、来てたんだ」  朝霧は隣に座った男を見つめて、目元を和らげた。  以前何度か抱いたことのあるショウという年下の男だった。  朝霧はこの店では美しい男として有名で、抱いてほしいと若い男から特に人気だった。  それ以上に若い男から熱烈なアピールを常に浴びているのが、隣の夏川だったが。 「ショウ。元気だったか? 久々だな」 「うん。でも最近、みーくんみたいに紳士的に抱いてくれる男の人になかなか出会えなくて」  朝霧の腕にショウがするりと腕を絡ませる。  途端に、隣から吹きだすのが聞こえた。  そちらを見ると、夏川が腹を抱えてげらげら笑っている。  膝に乗せていた少年はいつの間にか夏川の隣の席で、マスターが作ってくれたオレンジ色のカクテルを飲んでいた。  それを見て朝霧はホッと息を吐いた。 「この人、そんなに抱くのが上手だとは思えないんだけど。紳士ってか、ただのおじさんでしょ」  夏川に肩を掴まれたあげくそんなことを言われ、ムッとした朝霧は視線を鋭くした。 「そうだな。お前なんて若いだけが取り柄みたいな男だもんな」 「やだなあ、僻みっぽいおじさんって」 「誰が僻みっぽいだ。だいたいお前はボディタッチが多いんだよ。店内でああいう真似はやめろ。ここはそういう店じゃないんだ」 「何? 嫉妬? 」 「誰が嫉妬なんか」  夏川と朝霧の金曜日の言い争いは、もはやこの店の定番にもなっていた。  お互い初対面から性格が合わないらしく、軽快に罵りあう言葉がいつまで経っても途切れない。 「ほら、もうそこらへんでねっ」  マスターがレフリーのようにストップをかけるのもいつものことだ。

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