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第53話
朝霧が血走った眼で、タイピングしているとふいに肩を掴まれた。
振り返った先に渡会が立っている。
「お前、ミスした時に飯驕るって言ってたよな? 」
「あ……ああ」
唐突な問いに、朝霧は眉を顰めて頷いた。
「今日19時から居酒屋予約しといたから、奢って」
「おい、いきなり今日って」
「何? 予定でもあんの? まあ、金曜だし、予定あるなら別日にするけど」
先月まで朝霧が毎週金曜になると時間を気にして早めに帰宅していたことに、渡会は気付いていた。
「いや……予定はないよ」
暗い表情を朝霧が浮かべる。
「あっそ。じゃあ、後でな」
渡会が手を上げ、行ってしまうと、朝霧は目の前の仕事に集中した。
最後に夏川と会ってから、既に二か月が経っていた。
渡会の予約した居酒屋は和風で、雰囲気が良かった。
個室を予約していたらしく、乾杯のビールが届くと、渡会は一気にそれを飲み干した。
「お前はまあとりあえず食え」
渡会は意外にも気遣いを見せ、大皿のサラダなど取り分けてくれる。
朝霧は礼を言うと、キュウリをちびちびと齧った。
まずくはないが、リョウが作ってくれたものの方が、断然美味しい。
そんな感想を抱いた自分に嫌気がさし、朝霧もビールを飲み干した。
「おっ、良い飲みっぷり」
渡会がすかさずタッチパネルでお代わりを注文する。
「部長さ、お前のこと心配してたぞ」
ふいに渡会が呟き、朝霧が首を傾げる。
「俺のこと? 」
「自分だって分かっているんだろ? お前の顔色相当酷いぜ。それに痩せただろ。大きな病気でもしているんじゃないか。ちゃんと医者にはかかっているのかって、部長がさ」
「大きな病気なんてしていないよ。ただいつもの不眠が、ちょっと酷くなっているだけで」
朝霧は部長には自己管理がなっていない奴だと思われただろうと考え、慢性的な頭痛が更に酷くなった。
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