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第55話
「俺はいつも振られる理由ははっきりしているし、自分から振る時も相手にちゃんと伝えるけど。もし上手くいっていると思っていた相手から、突然理由も分からず振られて、後からあれは貴方のためだったのよって言われても、はあ?! って感じだよな。なに、自己完結しちゃってんの? みたいなさ」
「自己完結」
朝霧が呆然と呟く。
渡会はネギとショウガがたっぷり載った鰹を口に入れると、いつの間にか頼んでいた日本酒を飲んだ。
「まあ、はっきりしないといつまでももやもやするって話。別れるにしても一度ちゃんと話した方がいいんじゃないか? 相手のためにもだけど、朝霧だって今、そんな体調崩してるくらいだから、別れたくはなかったんだろうし」
「でも俺、相手をたくさん傷つけちゃって」
「ああ、お前無自覚にそういうことやりそうだもんな」
またも渡会の指摘に、朝霧はショックを受け、顔を強ばらせた。
「でもさ、今のぼろぼろのお前みたら、相手だって許してくれるかもよ。まあ、許してくれなくても話は聞いてくれるんじゃねえかな? 」
「許してくれるかな? 」
「まずはお前がちゃんと謝ってからだな」
「確かにそうだ」
夏川が許さなかったとしても、朝霧は夏川に謝りたかった。
もっと早くにそうすべきだった。
好きな相手を傷つけたら、許されるかどうかではなく、まずは謝るべきだったのだ。
「そんな簡単なことも俺は分かっていなかった」
「仕方ないんじゃね? お前、コミュニケーション能力低いわけだし」
そう言いながら、渡会の手にはスマホが握られていた。
もう渡会は朝霧との会話より、ゲームに夢中なようだった。
朝霧はそんな渡会に苦笑すると、万札を二枚、机の上に置いた。
たぶんここの会計よりは多いだろうが、悩みを聞いてくれた朝霧の感謝の気持ちだった。
「悪い。俺、行くな」
「おー。頑張れ」
渡会は視線をスマホから外さずに、手を振った。
朝霧は頷くと、夜の街を思い切り走った。
あの日、シュンと朝霧を追いかけて来た夏川のように。
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