60 / 241

第60話

 ぎゅっと朝霧は一度目を閉じると、決意したようにまた話し始めた。 「付き合ってから公平さんは俺のことを裸にして縛ったり、叩いたりするようになった。俺がこうされるのを喜ぶ性質だから、そうやっているんだと公平さんはいつも言った。『帝のために』ってね。公平さんは、俺の中に色々物は突っこんだりしたけど、自分の性器は一度も入れなかった。だからこれはセックスじゃないと。俺が望むから、公平さんが仕方なくしていることであって、セックスではないと何度も俺に彼は言い聞かせた。俺はそれを全て信じて、どんなに痛いことも俺の為にやってくれているんだと耐え続けた。俺はその頃には完全に公平さんに依存していた。彼に『大丈夫だよ』と言って貰えないと、受験のプレッシャーに耐えられなかった。彼を失うくらいなら、どんな痛みだって受け入れた」  朝霧は公平に馬鹿みたいに大きなディルドを無理矢理突っこまれて、血を流したことや、ベルトで叩かれて、背中の皮が破れたことを思いだしていた。  以前、木登りをしていて落ちたと夏川に説明した背中の傷も、実は公平が朝霧に付けたものだった。その傷を負った時、朝霧は高熱までだしたが、誰にも言ってはいけないと公平に言い含められていたため、その痛みと熱に1人で耐えた。 「そうやって、秘密の関係を続けてきて……高校受験の前日だった。その日は公平さんの最後の家庭教師の日だった。  公平さんは俺に言った。『君は育ちすぎてしまった。もう可愛いとは思えない。別れよう』って」  朝霧はその言葉を、未だに忘れることができないでいた。  だから抱いて欲しくても、自分のことを育ちすぎて可愛くないと思っているため、誰にもその願いを告げることができなかった。 「公平さんに振られたショックで俺は、その晩から高熱をだして、志望校全てに落ちた。結局二次募集をしていた近所の公立高校に行くことになったんだけれど」  受験に落ちた時の父の怒りは凄まじかった。  手こそあげなかったものの、「期待外れ」や「負け犬」などと強い言葉で長時間、朝霧を叱責した。

ともだちにシェアしよう!