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第61話

「俺の進学した高校はいわゆる落ちこぼればかり集まっている高校でさ。俺はその時公平さんに振られたショックを引きずっていて、何もかもどうでも良かった。勉強もろくにしないで、空き教室で同級生に勧められて煙草を吸って、それが教師に見つかって停学になって、それからは父親も俺のことを完全に見放すようになった」  夏川は朝霧の肩を抱き寄せた。 「たくさん頑張ってきたんだね」  幼子に話すような夏川の優しい口調に朝霧の瞳から涙が溢れる。 「大学はなんとか都内の国立に受かって、そのまま東京で一人暮らしを始めた。両親にはそれから一度も会ってない。一人息子なのに、冷たいよな」  夏川は朝霧の涙を、親指で拭くと、頭を撫でた。 「親子だからって何でも分かり合えるわけじゃない」  夏川はきっぱりとそう言うと、朝霧を抱きしめた。 「辛い過去のことちゃんと話してくれてありがとう。それと、ルーシーのことごめん。俺がゲイじゃないことを帝がそんなに気にしているなんて、考えもしなくて」  そう言うと夏川は朝霧の両肩を掴んで、間近で視線を合わせた。 「俺、今まで、男でも女でもセックスとか付き合うとかのハードルがすごく低かった。悪い子じゃなければ寝たし、付き合ってって言われたら、嫌いじゃなければ付き合った。付き合っても長続きはしなくて、振られても振っても、そんなの日常茶飯事だったから、すぐに相手のことは忘れた。帝だけだよ。振られても、どうしても諦められなくて、セフレになって欲しいってお願いしたの。それに別れても忘れられなくて、毎週帝に会えるかもしれないって、『やどり木』に通ったりしたのなんて」  朝霧は信じられない思いで夏川の告白を聞いていた。 「お前、『やどり木』に通っていたのか?」 「目当ての帝は今日まで現れてくれなかったけどね」  夏川が肩を竦める。

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