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私から見た彼らは3

「見慣れると、こんなもんかって気分だけどね」  夏川が肩を竦める。 「ずいぶん贅沢な感想だこと。あっ、これ手土産よ。良かったら飲んで」  猪塚が夏川にラッピングされた赤ワインのボトルを手渡す。 「これ、ずいぶんいい酒じゃないか。ありがとう。早速開けよう」  夏川は嬉しそうに目を細めると、4脚の椅子と机のセットの1つに座るように猪塚に勧めた。  朝霧も猪塚の隣に座り、夏川は朝霧の前に座る。  夏川はワインを開けると、それぞれのグラスに注いだ。 「乾杯」  夏川の言葉で、三人はグラスをあわせた。 「これ全部、リョウが作ったの? 」  猪塚の目の前にはローストビーフ、サラダ、モッツァレラチーズのパスタが並んでいた。 「口にあうといいんだけれど」  夏川が朝霧と猪塚にローストビーフとサラダを取り分ける。  猪塚はパスタを巻きつけたフォークを口に運んだ。  オリーブオイルが効いていて、美味だった。 「美味しいわ」  猪塚は自分の持ってきたワインを飲んで、満足げに息を吐いた。  料理を褒められて笑顔を浮かべる夏川を、猪塚はじっくりと見つめた。  朝霧の小綺麗な容姿と、夏川のワイルドな見た目はまるで正反対だった。  知り合いの紹介で、一年ほど前から『やどり木』に顔をだすようになった夏川を初対面でゲイではないと猪塚は見抜いていた。  むしろ誰にでも愛想よく振舞うが、どの男の誘いにも乗らない夏川のことを猪塚はバイでもなく、ノンケでないかと思っていた。  こういう猪塚の勘は大抵外れない。  猪塚はゲイバーとして『やどり木』を経営しているが、女性禁止なだけで、店で悪さをしない限り、ノンケも客として受け入れていた。  ただ、女性が一切いない『やどり木』の店内で、自分が同性の恋愛対象となると分かっていて常連になるノンケの男は、今まで夏川以外にはいなかった。  夏川は店内では誰の誘いにものらないが、紳士的で優しく、男らしく整った顔立ちのせいで大層人気があった。  ノンケであろうと集客効果のある夏川の来店を、猪塚は喜んでいた。  だから、店内で突然夏川が男の誘いに乗った時、猪塚は驚愕した。

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