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私から見た彼らは6

「そうできればいいんだけど……、俺抱かれる方だといつもすぐ振られてきたからな」  暗い表情で朝霧が俯く。  いつもなら他人に自身のことをそう語らない朝霧だが、結構な量摂取したワインが彼の口を軽くしていた。 「そんな、みっちゃんみたいな、心も見た目の綺麗な男を振るなんて、今までの元カレたちが見る目がなかっただけよ」  目を吊り上げて首を振る猪塚に朝霧は苦笑した。 「ありがとう、マスター。お世辞でもそう言って貰えて嬉しいよ」  過去を振り返って、しょげている朝霧を猪塚は何とか元気にしたかった。 「その……話したくなければいいんだけど、過去にみっちゃんが振られた理由ってどんなものだったの? 」  朝霧が遠い目をする。 「そうだな。そうは言っても、そんなに付き合った人数が多いわけじゃないんだ。例えば俺は自分がドМだと思っていたから、出会い系で知り合ったドSの男とホテルに行ったんだけど、荒縄できつく縛られたら痛くて、快感も何もないって怒ったら、キレられて振られたり」 「それは振られたっていうより、性癖の違いよね。だいたいみっちゃん、なんであんた、自分がドМだなんて思ったの? 」  猪塚がため息をつく。 「初恋の人に言われたんだよね。でも息もできないくらいきつく縛られたり、吊り上げられたりしても、俺、興奮しないどころか萎えちゃって」  寂し気に微笑む朝霧がどうにも可哀想で、マスターは眉を寄せた。  容姿だけみれば、散々男を食い散らかしてきたようにさえ見える朝霧が、振られたことをこんなに気にして、自信をなくしているなんて、誰が信じるだろうか。 「他はどんな男と付き合ったの? 」  過去を思い出して、耐えきれなくなったのか朝霧がワインを飲み干し、またボトルから手酌で注ぎ、煽る。  酔いのせいでうっすら目元を赤くした朝霧は、猪塚が目を逸らしたくなるほど、色っぽかった。

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