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第72話
「でもそれじゃ、リョウにばかり負担が大きくなるじゃないか」
家賃だけでも申し訳ないのに家事まで夏川に押し付けるような真似は嫌だと、朝霧は首を振った。
「好きな人のご飯作ったり、お世話したりするのって俺にとって負担じゃないよ。喜びだよ」
そんなことを言う夏川の気持ちが嬉しくて、照れた朝霧はついぶっきらぼうな口調になってしまう。
「ありがとう。でも本当に一緒に住むってなったら、俺も家事をやるから」
「うん、楽しみにしている」
夏川は同居の件についてはそれ以上つっこまず、朝霧は肩の力を抜いた。
朝霧だって、大好きな夏川と一緒に暮らしたいという想いはもちろんある。
しかし、金銭的にも家事的にも夏川の負担ばかりが重そうな状況は、やはりどうしても納得いかなかった。
それに一緒に暮らし始めたら、もっと夏川と別れ辛くなる。
こんなに幸せでも、朝霧はいつか自分が夏川に振られるという思い込みを捨てきれなかった。
「ところで、帝。ゴールデンウイークは何か予定ある? 」
「いや、全然」
答えながら、朝霧の胸は高鳴っていた。
今年のゴールデンウイークはカレンダー通りに休めれば、5連休になる。
大きな案件を先日片付けたばかりの朝霧は、五連休をとれることがほぼ確定していた。
しかし友人もいなければ、実家に帰る予定もない朝霧は、連休といってもやることがなかった。
渡会のように徹夜でゲームをするというような趣味も朝霧にはない。
かといって、夏川という恋人ができた今、以前のように『やどり木』に1人で通う訳にもいかない。
ゴールデンウイーク、夏川も休みならいいのに。
朝霧は密かにそう思っていたが、今まで確認できていなかった。
食品のセレクトショップを経営している夏川にとって、連休は稼ぎ時だと分かっていた。
仕事の邪魔をするつもりは朝霧には毛頭なかったけれども、1日だけでも一緒に居られたらと密かに願っていたのだ。
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