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第74話
キャンプ前日。
朝霧は用意した新品のリュックサックを目の前に、途方に暮れていた。
あれから夏川はゴールデンウイーク中に連休をとるために、前倒しで仕事を処理すると言って、ほとんどの時間を会社で過ごしているらしく、朝霧は会うことができなかった。
朝霧はその間にキャンプ場でも浮かない服や靴を買い求め、今日を迎えた。
人見知りの激しい朝霧は、明日夏川の友人達と顔を合わせて何を話せばいいか見当もつかなかった。
いきなり酒の一気を強要されたらどうしよう。
夏川は大学でもいわゆる陽キャとよばれる人種だったろうし、その友人もきっと似たようなタイプだろう。
根暗な朝霧は、そんな友人達と自分が打ち解けるところが想像できなかった。
枕を抱きしめ、朝霧は、ベッドに転がった。
本当は2人で温泉とか行きたかったのに。
そうすればこんなことで悩まずに済んだんだと、朝霧は、つい目の前にいない夏川を恨めしく思ってしまう。
朝霧はため息をつくと天井を見つめた。
こんなんじゃ、同棲したって上手くいかないに決まっている。
夏川はすぐにでも朝霧と一緒に住みたいようだったが、朝霧は二の足を踏んでいた。
夏川の強引なところが朝霧は好きでもあったが、今回の旅行計画などを考えると、どうしても自分達は根本的な部分で合わないのかもしれないと悩んでしまう。
8歳も年下だし、性格的には似ていないって分かってはいたんだけれど。
朝霧は再び大きなため息をついた。
それに同棲するなら、本当はあの家以外がいいのだけれど、そんなことは言えないし。
朝霧の夏川の家に対する不満は、家賃が高すぎること以外にもあった。
たぶん、あそこの家、幽霊がでる。
それに気付いたのは、ちゃんと交際を始めてからだった。
夏川の家に泊る頻度が増えた朝霧は、自分達以外の第三者の気配をあの家で感じることが多々あった。
先日など、夏川に貫かれ、快感のあまり意識を朦朧とさせていた朝霧がうっすらと目を開くと、こちらを見つめる影が見えた気がしたのだ。
直後に夏川に激しく動かれ、朝霧は気を失ってしまい、次に目を覚ました時にはそんな気配は一切なかったが。
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