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第75話

 おかしいよな。  俺、霊感とかないはずなんだけど。  第三者の気配について、夏川に何度か伝えようと思ったこともあった。  しかし夏川はそんな気配を感じている様子はないし、急に朝霧がそんなことを言い始めたら、不愉快だろう。  幽霊がどうとか、痛い奴だと思われたくはないし。  朝霧はとりあえず様子を見ようと考えているが、やはり気味が悪くて、夏川の家を訪れる時は塩を入れた袋を持ち込み、夏川に気付かれないようにそれをこっそりと部屋に撒いていた。  ああ、それよりも明日のキャンプのことを考えなきゃ。  虫よけは入れたよな。  考えを切り替えた朝霧は特大サイズの虫よけスプレーを取り出したついでに、もう一度荷物の点検を始めた。  少しでもみんなと打ち解けられるようにトランプまで用意していく朝霧のリュックは大きめのサイズなのにパンパンだった。  登山などの予定もないのに、万が一遭難した時のため、コンパスやチョコレートなどもリュックにはちゃんと入れてある。  明日、上手く話せるかな。  荷物の点検を終えた朝霧は、「初対面 会話」などのキーワードでネット検索を始めた。  気がつくと空が明るくなっていて、朝霧は、結局一睡もしないまま、迎えにきた夏川の車に乗りこむこととなった。  夏川はインターチェンジで冷たい水を買うと、車に走って戻った。  この日の為にレンタルした4WDの後部座席のドアをスライドさせ、横になっている朝霧に声をかける。 「帝、水買ってきたよ」  朝霧はゆっくりと上体を起こすと、青白い顔で夏川を見上げた。  朝霧は夏川に礼を言って、ペットボトルを受け取ると、ため息をついて水を飲んだ。 「体調どう? 吐き気は? 」 「さっきトイレで一回吐いたら、だいぶ落ち着いた。心配かけてごめんな」 「いいんだよ。俺の方こそ帝が車酔いしやすいって知らなくて。ちょっと運転乱暴だったかも。ごめん」  夏川の言葉に、慌てて朝霧が首を振った。 「リョウの運転のせいじゃない。俺は乗り物酔いなんて、いつもはしないんだ。ただ昨日はリョウの友人に初めて会うと思ったら緊張してしまって、あまり眠れなかったから」

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