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第76話
俯く朝霧に夏川がキスをする。
「そんなに緊張しなくたって大丈夫だよ。みんな気のいい奴らだし」
微笑む夏川に朝霧がぎこちない笑みを浮かべる。
「でも俺、リョウと違って話題も豊富じゃないし、歳も違うから」
「もう、帝」
夏川が朝霧をギュッと抱きしめた。
「そんなこと気にしなくたっていいんだよ。俺の恋人ってだけで、無条件でみんな受け入れるにきまってるんだから」
朝霧はそんな夏川に甘えるように、首筋に己の鼻先をこすりつけた。
「それでもやっぱり少しでもいい印象をもってもらいたいじゃないか。お前の大切な友達なんだから」
そんなことを言う朝霧が愛おしくて、夏川は再度唇を重ねた。
舌を滑り込ませ、朝霧の口内を丹念に舐めると、舌同士を絡ませ思い切り吸い上げる。
濃厚なキスに、朝霧の息があがる。
夏川は唇を解くと、そっと朝霧の髪を撫でた。
「もう少し休んでから、出発する? 」
朝霧は首を振った。
「もう吐き気もないし、大丈夫だ。遅刻したら悪いだろ? 」
「そんなの気にしなくていいのに。また気持ち悪くなったら、休憩とるから遠慮なく言ってね」
夏川は運転席に座ると、車を出発させた。
後部座席で横になってうつらうつらしているうちに、だいぶ朝霧の気分も良くなった。
顔を上げると生い茂った木々しか見えなくて、キャンプ場に近づいていることを実感する。
車が脇道にそれ、目の前に大きな白い一軒家が現れる。
「着いたよ」
夏川の言葉に、朝霧の緊張が高まる。
ドアを開け、思い切り空気を吸いこむ。
寒いくらいの気温で、シャツの上にパーカーを羽織ってきて良かったと朝霧は息を吐いた。
ふいに家の扉が開き、女性が2人、男性が2人、こちらに向かってくる。
朝霧はごくりと唾を飲むと、手をぎゅっと握りしめた。
握りしめた掌は汗でぐっしょりと湿っていた。
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