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第181話
朝霧の言葉に今度は音羽が衝撃を受けたようだった。
音羽が眉をひそめる。
朝霧はそんな音羽に苦笑した。
「なんだよ。まさかあんた、俺があんたが医者になった経緯を聞いて感動するとでも思ったのか? そもそも俺を振ったのはあんたの方なんだけど」
「それは、ごめん。僕が間違っていたよ。自分が子供好だと勝手に思い込んで、君の成長を素直に喜べなくて」
「あんたの昔話なんてどうでもいい」
朝霧はぴしゃりと言うと、息を吐いた。
目を閉じ、夏川の笑顔を思い出す。
大丈夫だ。俺は1人じゃない。
心の中で呟く。
瞼を開き、音羽を睨みつけた。
「中学生時代俺があんたに救われた部分も確かにあっただろうよ。だからってあんたが俺にやったことは許されることじゃない。あんたは中学生の俺に虐待をしたんだ。それに俺はようやく気付けた」
「虐待だなんて」
音羽の顔色が真っ青になる。
「俺はもうあんたの顔なんて二度と見たくない」
「待てよ」
踵を返した朝霧を音羽が止める。
振り返った朝霧の瞳に、無表情の音羽が映る。
「ずいぶん言いたい放題言ってくれたね」
音羽はアルバムを放りだすと立ち上がった。
「まず君は僕と二度と会わないなんて言ったけれど、それは無理じゃないかな。僕は君のお父さんの跡を継ぐ予定だしね。それとも君はこの家と縁を切るとでもいうつもり? 」
朝霧は少しでも親孝行したいと今日、実家に戻って来た。
しかし今日帰って気付いた。
自分の居場所は、もうこの家にないと。
両親も実の息子の朝霧より、よっぽど音羽の方を可愛がっていた。
なんでこんな男をと腹の立つ気持ちがないわけではない。
しかし、十年以上実家を顧みなかった、朝霧も悪かった。
両親には思うところもあるが、幸せに暮らして欲しいと願っている。
例えその幸せを朝霧が見ることができないとしてもだ。
結局朝霧は医者にはなれなかった。
音羽のことは許せないが、うちを継いでくれるという部分だけは感謝しなくてはいけないかもしれない。
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