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第182話

「俺はあんたに人間的に問題があると思っているけど、医者としては立派なんだろ? なら、ここを継ぐなり好きにすればいい。俺はあんたのいるこの家にはもう帰らないけれど」  音羽が苦笑する。 「分かってないね、帝くん。僕は君の為に医者になったんだよ。肝心の君がここに寄りつかないなら、僕がおじさんの跡を継ぐ意味なんてない」  朝霧は音羽の言っている意味を理解しようとゆっくり瞬きを2回した。 「俺にどうしろっていうんだ」 「傍にいて欲しいんだ。僕の傍に。僕は君が好きなんだよ」  中学生の朝霧ならば音羽に好きと言われたなら、天にも舞昇る気持ちだったろう。しかし今の朝霧は困惑がほとんどで、告白されたことに関しては嫌悪すら感じていた。 「それは無理だ。俺には付き合っている相手がいる」  音羽はハッとした表情を浮かべると、ぎりりと音がするほど歯を食いしばる。 「それはどんな相手? 男だろ? 年上? 年下? 」 「あんたには関係ない」 「答えないなら僕はおじさんに跡継ぎにはなれないって言うよ」  朝霧が目を見開く。 「僕は本気だよ。おじさん可哀想だね。帝君がちゃんと医者になれていれば何にも問題なかったのに。やっと育てた後継者の僕すら、帝君のせいでいなくなっちゃう」  音羽の今言ったことは事実に違いなかった。  朝霧は医者になれなかった。せっかく見つけた音羽すら、朝霧のせいでダメになってしまう可能性がある。  朝霧はふいにパニックに襲われそうになり、唇を噛んだ。  早く音羽との会話を終わらせようと、朝霧は口を開いた。 「年下の男だよ。もういいだろ」 「いいわけないだろ。その男のこと愛しているの? 」 「付き合っているんだ。当たり前だろ」  朝霧の回答に音羽が目を眇める。

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