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第195話

 他人の居るところでは再生しない方がいいだろうと言われ、朝霧は音羽に従い、ビジネスホテルの一室に大人しくついて行った。  ツインの部屋は、申し訳程度に小さな机と、二脚の椅子が置いてあり、ベッドが部屋の半分以上を占めていた。  こんな狭苦しくベッドのある場所で、音羽と2人きりという状態で、朝霧はすでに息が詰まりそうだった。  夏川にバレたら、『1人で音羽に会いに行くなんて、何を考えているんだ』と怒鳴られるかもしれない。  それでも俺は、リョウを守りたい。  朝霧はそう決意して、目の前に座っている音羽を睨みつけた。 「録音、聞かせろよ」  音羽はにっこりと笑うと、スマホを小さなテーブルの上に乗せた。 「その時私は、渋谷のクラブのVIP席に座っていた」  スマホから聞こえてくる声は酷くかすれていて、本当に若い女性の声だろうかと朝霧は首を傾げた。 「隣にリョウが来て、私に酒を飲めって。かなり強引だった。リョウ、見た目はイケてたし、私もお酒は好きだから結局言われるままにどんどん飲んじゃって。気がついたら立てないくらい酔っ払ってた。そうしたらいきなりリョウが私に覆いかぶさってきて。私は何度も止めてくれって泣いて頼んだ。それでもあいつはそんな私を笑いながら、無理やり」 「嘘だっ」  俺が叫ぶと、音羽は肩を竦めた。  無表情でスマホを手に取ると、自分のバッグにしまう音羽を朝霧はじっと睨みつけた。 「真偽のほどは、分からないけどね。彼女はそう主張している」 「証拠はあるのか」  朝霧の言葉に音羽は首を振った。 「証拠はないよ」  朝霧はホッと息を吐く。 「だけど、それじゃあ夏川が彼女をレイプしていないって証拠はあるのかい? 」 「それは……」  正に「悪魔の証明」だ。

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