217 / 241
第195話
他人の居るところでは再生しない方がいいだろうと言われ、朝霧は音羽に従い、ビジネスホテルの一室に大人しくついて行った。
ツインの部屋は、申し訳程度に小さな机と、二脚の椅子が置いてあり、ベッドが部屋の半分以上を占めていた。
こんな狭苦しくベッドのある場所で、音羽と2人きりという状態で、朝霧はすでに息が詰まりそうだった。
夏川にバレたら、『1人で音羽に会いに行くなんて、何を考えているんだ』と怒鳴られるかもしれない。
それでも俺は、リョウを守りたい。
朝霧はそう決意して、目の前に座っている音羽を睨みつけた。
「録音、聞かせろよ」
音羽はにっこりと笑うと、スマホを小さなテーブルの上に乗せた。
「その時私は、渋谷のクラブのVIP席に座っていた」
スマホから聞こえてくる声は酷くかすれていて、本当に若い女性の声だろうかと朝霧は首を傾げた。
「隣にリョウが来て、私に酒を飲めって。かなり強引だった。リョウ、見た目はイケてたし、私もお酒は好きだから結局言われるままにどんどん飲んじゃって。気がついたら立てないくらい酔っ払ってた。そうしたらいきなりリョウが私に覆いかぶさってきて。私は何度も止めてくれって泣いて頼んだ。それでもあいつはそんな私を笑いながら、無理やり」
「嘘だっ」
俺が叫ぶと、音羽は肩を竦めた。
無表情でスマホを手に取ると、自分のバッグにしまう音羽を朝霧はじっと睨みつけた。
「真偽のほどは、分からないけどね。彼女はそう主張している」
「証拠はあるのか」
朝霧の言葉に音羽は首を振った。
「証拠はないよ」
朝霧はホッと息を吐く。
「だけど、それじゃあ夏川が彼女をレイプしていないって証拠はあるのかい? 」
「それは……」
正に「悪魔の証明」だ。
ともだちにシェアしよう!