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第206話

「良かった。見た目ほど酷い傷じゃなさそう。それでも膿んできたりしたら病院に行こう」  腐っても音羽は医者だ。病院が必要になるほどの怪我は負わせなかったということだろう。 「何で来てくれたの? 」  ぽつりと問う朝霧の両手を夏川が優しく握る。 「帝、俺に電話くれたでしょ? 折り返したらでないし。何だか悪い予感がしたんだ。来て良かったよ」  ほうっと夏川が息を吐く。 「……てたくせに」 「えっ?」 「今まで無視してたくせに。連絡とるの止めようって、別れたいってことだろ? なのになんで今更心配した振りなんてするんだよっ」  こんなことを言ったらせっかく来てくれた夏川が去ってしまうかもしれない。そう思っても朝霧は止まらなかった。  荒い息を吐く朝霧の涙が、自分の握りしめた拳に落ちる。 「帝」  夏川は言葉を失っているようだった。  このまま夏川が怒って部屋を出て行ってしまう恐怖に怯えながら、朝霧も何も言うことができない。  朝霧のすすり泣きだけが、部屋に響く。 「帝、本当にごめん」  夏川は朝霧の目の前で床につくくらい頭を下げた。 「帝が何か隠しているのは分かったし、そのせいで音羽に逆らえないんだろうなっていうのは何となく察しがついたんだ」  夏川が顔を上げ、言葉を選んでいるように、視線をさ迷わせる。 「何で俺に本当のこと言ってくれないんだろうとか、そんなに俺って頼りにならないのかとか考えたら、何も言ってくれない帝に……腹が立ってきちゃって」  夏川がため息をつく。 「連絡とるのやめようって言ったのは、音羽にバレないように奴のこと探りたかったからなんだ。でもそれだけじゃなくて、何も言わない帝にちょっとムカついてて、困らせてやれって気持ちもあった」  夏川が再び頭を下げる。 「本当に自分がガキ過ぎて嫌になる。帝のことこんなぼろぼろになるまで放っておいて本当にごめん」

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