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第207話

 朝霧は首を振った。 「俺もリョウに隠し事してたし」 「隠し事って、俺のせいで音羽に脅されてたこと? 」  朝霧は小さく口を開けた。 「知っていたのか? 」 「調べたんだよ。ちょっと時間かかったけど」  夏川が自分のスマホを取り出し、画面を見せる。  そこにはメイクの派手な女性が映っていた。 「音羽に俺が女の子、乱暴したって言われたんだろ? 女の子の証言もあるって」  朝霧はこくりと頷いた。 「これがその証言した女の子」 「えっ」  朝霧は改めて女性の顔をまじまじと見つめた。 「ちゃんと話したら、彼女が勘違いしてるってすぐに分かった。だって俺と彼女、この時が初対面だったからね」 「えっ」  朝霧は再び驚いて声をあげた。 「彼女が乱暴されたっていう渋谷のクラブも俺行ったことなかったし。彼女もびっくりしていた。名前が同じで音羽から聞いた雰囲気も似ていたから、色々話しちゃったんだって。人違いして、申し訳なかったって謝られたよ」 「そうだったんだ」  朝霧は肩の力を抜き、表情を緩めた。 「良かった。リョウがそんなことをする男じゃないって分かっていたけど。公平さんなら女の子に嘘をつかせてでも、リョウのこと追い込む気がしたから。誤解がとけて、本当に良かった」 「帝」  夏川が朝霧の手を掴む。 「俺のせいで脅されていたなら、俺に本当のことを言いにくかったのは分かる。だけど俺は言って欲しかった」  夏川と朝霧は間近で見つめ合った。 「帝が俺のせいで、音羽に脅されているって知ったとき、俺がどんな気持ちだったか分かる? 今日帝の傷ついた背中を見た時、俺は息が止まりそうだったよ。こうなったのも全部俺のせいだって思ったら、すごくきつい。ねえ帝、もう隠し事をするのは二度とやめてくれ。帝は俺を守ろうとしてくれたのかもしれないけど、俺はそのせいで帝が傷つく方が何倍もつらい。」  きつい口調で言われ、朝霧は何度も頷いた。

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