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第208話
「俺……リョウにちゃんと話した方がいいんじゃないかって、考えたりもしたんだ。でも公平さんのことでリョウを巻き込んで、リョウの仕事にまで迷惑がかかったら、リョウは俺のことを嫌になるんじゃないかと思って、恐ろしくて言えなかった。それからあれを履いているの見られて」
朝霧は今も自分が身につけている貞操帯のことを考え、恥ずかしさから消えてしまいたくなったが、懸命に話し続けた。
「パニックになって、リョウから連絡をとるのやめようって言われて……もうお終いだって思った。嫌われたって」
朝霧が零す涙を、夏川は指先で優しく拭う。
「もうリョウは俺のこと呆れたんだって。見限ったんだって。もう二度と会えないって思って」
言いつのる朝霧の体を夏川がふい抱きしめた。
「二度と会えないわけない。俺は帝に会いたくて仕方なかった。こんなことで嫌いなったりするもんか。一生傍にいるって誓ったじゃないか」
「そんな言い方ずるい。誰のせいで会えなかったと思っているんだよ」
「俺のせいだよね。でも元はといえば、帝が俺に隠し事したからだからね」
「それは、ごめん」
素直に謝る朝霧に夏川がキスをする。
唇が角度を変え、朝霧の口内に滑らかに舌が入ってくる。
「つぅ」
朝霧が痛みに顔を顰めた。
「帝」
夏川がその背を撫で、心配そうに顔を覗きこむ。
「大丈夫。ちょっとすれば治まるから」
朝霧は興奮を鎮めようと、深呼吸を繰り返した。どうしても夏川といると、貞操帯のせいで痛みを覚えてしまう。
「帝。音羽のこと呼び出せる? 」
夏川の問いに朝霧が顔を上げる。
「もういい加減決着をつけよう。俺、帝と体も心も愛しあいたいよ」
朝霧は決意した表情で頷くと、音羽にメールを打ち始めた。
その夜、都内のビジネスホテルの一室に音羽は立っていた。
眼下に見える夜景は素晴らしいものだったが、その表情は晴れない。
「座りませんか? 」
夏川は微笑みながら、目の前の椅子を指した。
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